迷走する「NHKネット受信料」上層部の狙いは何か 総務省の有識者会議は一旦区切りがついたが…

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

こうした新聞協会の主張に、NHKからは反論が出てこない。むしろ「仰せの通り」と言わんばかり。「NHKプラス」で新たな受信料さえ取れればよく、それを通すために新聞協会の主張を受け入れているのではないか。

2023年8月29日の「公共放送WG」の「まとめ」では、必須業務化にあたりテレビを持たない人でも「NHKプラス」を積極的にインストールする人なら、ネットでの受信料を取れることが方針になった。一方で「理解増進情報」は一旦廃止し、番組以外の情報は、放送に関連する情報を配信することのみに限定された。

これは、契約者にとっては大きな後退だ。新聞協会が国民の不利益になることを主張しているのにそれが通ってしまった。新聞協会が「テキストニュース撤退」を言い出してから1カ月で主張が反映されたわけで、彼らの政治力の強さをあらためて思い知らされた。

だが「ニュース」以外にもNHKはさまざまな情報発信をしてきた。子どもたちの学習に役立ち、特にコロナ禍では多く利用された「NHK for School」もやめるのか? Eテレの番組を掘り下げる福祉情報サイト「ハートネット」も閉じるのだろうか? 「クローズアップ現代」などの取材で得た情報を記事化し、そのテーマで悩む人々の意見を集めて次の番組に生かす「みんなでプラス」を閉じてしまうと、さまざまな問題で苦しむ人々との接点が失われてしまう。

今後数年間が正念場

NHKは「公共メディア」を目指してネットの拡張性や双方向性を生かした取り組みを地道に行ってきた。これらをクローズするのは、国民に対する裏切りと言っていい。

そしてNHKのネット必須業務化とは、こうした地道な活動と、「NHKプラス」の単独有料化と、セットで考えるべきなのだ。そこがいまの上層部には決定的に理解できていないようだ。

総合・Eテレの常時同時配信・見逃し番組配信サービスの「NHKプラス」は放送利用者にとっては便利なツールだ。外出中でもスマホでNHKの番組を視聴できる。だが日頃放送でNHKを見ていない人には必要がない。上層部が想定しているほど、ネット単独の契約者が増えないのは目に見えている。アンケートでも取ればすぐわかるのに、甘いとしか言いようがない。

NHKがネット業務でも受信料を取れる可能性は、いわゆるフリーミアムの手法を駆使することでやっと生まれる。ある程度、無料でアクセスできる領域を用意する必要がある。無料でニュースを読むうちに、有料の「NHKプラス」も使ってくれる可能性が出てくる。さらに先述のような地道で一見狭い領域でも人々に伝え、つながり、関係を結ぶことで有料サービスへの道筋ができてくる。

テレビを買ったら即「受信料を」と言えば済んだのと比べると途方もない努力が求められる。だがNHKの現場が本気でネットのさまざまな力を駆使すれば、ネットでも積極的に受信料を払うコミュニティが生まれる可能性はある。

少なくともこれまで目指していた「公共放送から公共メディアへ」とは、そのような考え方だったはずだ。いよいよそれを方針として明示するタイミングになって体制が変わったら「ネットでも放送と同じことをやればお金が取れるはず」という考え方に大きく後退してしまった。この体制が続く3年間、メディア環境は激変する。NHKは時代に取り残されてしまうだろう。現場から具体的な動きを積み重ねて、巻き返すしかない。NHKがネットに居場所を作れるか、今後数年間が正念場となりそうだ。

境 治 メディアコンサルタント

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事