ジャニーズ問題で「CM起用中止の企業」に問う 「ビジネスと人権」専門家の弁護士が抱く疑問
──アサヒ以外も含めて、企業の対応のどこに引っかかりを感じますか。
CM起用をやめるとしたら、ジャニー氏の性加害を事実認定した「再発防止特別チーム」の報告書が出されたタイミングもあったはず。そのときは何もせず、事務所の会見で見切りをつけたようにみえる。もしそうであれば少し乱暴だ。
事務所が会見するまでに、「こういう対応をしてください。それをしないのであればタレントのCM起用はやめます」と伝える。そのうえで「会見から判断すると対応は不十分。起用をやめます」と進めるのが、国連の指導原則などからすると筋。
期限を設定しその間に一定の対応を求める、さらにその過程を情報開示することが重要となる。「当社はこういう問題意識を持っており、このような要請を相手方にしている。この時期までに対応してくれなければ、必要な措置をとる」と示す。
ビジネスと人権の考え方を読み解いて、企業が対応したようには現状みえない。取引停止により経営上のリスクを早期に遮断しようとするのは当然だ。しかしビジネスと人権の考え方と両立する手段を、悩みながらでも探っていく必要がある。
ジャニーズ事務所や広告代理店に遠慮?
──ビジネスと人権の観点からは、しかるべき段階を踏んでいない、と。
3月にイギリスBBCがドキュメンタリー番組を放映し、4月になるとカウアン・オカモトさんらが告白を始めた。その時点で企業はアクションを起こせた。性加害の事実があったと断言できないとしても、疑いが高まった状況であったはず。
現状を憂慮していると表明することはできた。そして疑いを払拭するという意味でも、「ジャニーズ事務所として実態を調査し、外部に公表しないとしても自分たちには報告してください」というべきだった。
──自社で生じるコンプライアンス上の懸念に関しては、第三者委員会を早期に設置するなど企業は初動を早めているように感じます。そういうスピード感もないわけですね。
今回の件では、ジャニーズ事務所や広告代理店に遠慮していた側面もあると思う。スポンサー企業はジャニーズファンの購買力に感謝しており、経済的なメリットを感じていたであろう。
ジャニーズタレントの起用はイメージアップにだけでなく、売り上げにも直結していた。そのためジャニーズ事務所を特別な存在とし、遠慮していたのではないか。