厚生労働省の不備も露呈、ユッケ食中毒の悲劇
北陸地方を中心に展開する焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」で、4月末に集団食中毒が発生した。提供されたユッケを食べた客が、腸管出血性大腸菌O-111やO-157に感染。4人が死亡し、患者数は118人に達している。
事件を受け、「焼肉酒家えびす」を運営するフーズ・フォーラスは石川県の本社で記者会見を開き、勘坂康弘社長らが謝罪。4月29日から全店営業停止に追い込まれた。
今回の事件で問題視されているのは、衛生管理に関する責任のなすり合いだ。フーズ社に肉を納入していた卸業者の大和屋商店は「加熱用として出荷していた」と主張するが、フーズ社は「ユッケ用という認識で仕入れていた」と言い、見解が食い違う。
基準違反でも罰則無し
そもそも国の衛生基準を満たした生食用牛肉は、現在流通していない。
厚生労働省は牛の生レバーで起きた食中毒の発生を受けて、1998年に「生食用肉の衛生基準」を通知した。ただ、生食用牛肉を出荷できる食肉処理場が国内にはなく、衛生基準に違反しても罰則はない。なし崩し的にそれぞれの店で判断していたのが実態だ。しかも、食中毒を起こしやすいカキなどは食品衛生法で「生食用」と「加熱用」に区別しなければならないが、牛肉にはそれがない。「飲食店側の解釈次第で生肉として使うことが可能だった」(全国焼肉協会)。
加えて、フーズ社と大和屋商店は、生食用食肉のトリミング(筋膜、スジなど表面を削り取る行為)を行っていなかった。O-111などの菌は肉の表面に付着するため、その部分を削れば、食中毒を防ぎやすくなる。ただ、「本来、生肉はトリミングを行い歩留まりが下がれば、コストは2割以上かさむことになる」(「牛角」を展開するレインズインターナショナルの西山知義社長)。