台風や地震に備える「災害時トイレ」意外な盲点 自治体保有「トイレトレーラー」は全国20台のみ

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「災害で怖いのは災害関連死です。それは人の仕組みで解決できる。避難生活でトイレを我慢することによって体調を崩す。避難生活のトイレ問題をなんとかしよう、と。それを皆で解決していきましょうと考えました」。石川さんは振り返る。

もともとは被災者のために作られたトイレトレーラーだが、最近の水害では医療関係者や泥の掻きだしをするボランティアにも活用されている。巡っては、それが被災者たちの健康を支えることになる。

災害用トイレの普及、推進を進めているNPO法人・日本トイレ研究所のホームページにある「災害用トイレガイド」を見ると、実に様々なタイプのトイレが開発、商品化されていることに驚く。東日本大震災以降の国、自治体、企業、民間団体の取り組みにより、災害時のトイレ事情はかなり改善されたのだろうか。

「3.11以降、大きく改善してはいないと言っていい。依然として社会的に大きな課題なんです、災害時のトイレ問題というのは、人の命や尊厳にかかわることで、さすがに後退はしていないのですが」。日本トイレ研究所の加藤篤代表理事は、こう話して表情を引き締めた。

確かにユニークなアイディアで進められてきた「みんな元気になるトイレ」も、導入済みの自治体は20で全国自治体数の1.1%にすぎない。防災基本計画が災害時のトイレについてどう定めているかというと、市区町村に対し、指定避難所に仮設トイレ、マンホールトイレの整備に努め、携帯トイレ、簡易トイレの備蓄に努めるよう求めている。

災害時のトイレには複数の選択肢が必要

水害時を想定して江東区の主婦らは、携帯トイレの普及活動をしている。加藤代表理事は「携帯トイレはマストアイテム。自宅のトイレという空間を活用して利用できるし、自助として備える必要があります。ただし出した後のゴミを正しく管理して処理処分しなくてはいけない」と話す。

江東区は使用済みの携帯トイレの扱いについて「まだ水害の状況が落ち着いておらず収集体制が確保できていない場合は、広報したうえで携帯トイレ、紙おむつ、生ごみを優先して回収します。収集体制が確保されてからは、その他可燃ごみと合わせ燃やすごみに出してもらいます」と話す。

災害が起きていない平時に携帯トイレを試しに使った場合は、「し尿が凝固剤などで固形化されているので、少量であればほかの可燃物と合わせて燃やすごみの日に出してください」としている。江東区は2022年、災害廃棄物処理計画を定めた。まだ方針を決めていない市区町村もあり、ルールの明確化が急がれる。

加藤代表理事は「携帯トイレの確保だけで十分かというと、自宅の置き場にも限界があるし、マンション全体の置き場も限られる。複数の選択肢を持つことが重要」と指摘する。

そのうえで「大事なことは、異なるタイプの災害時トイレを分散して使うこと。マンホールトイレがあれば昼間はそれを使う、マンホールトイレがなければ仮設トイレを調達するなど選択肢を組み合わせる。大小便を一か所に集中させない、分散させることがカギとなる」と強調している。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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