「大学院の修士課程に進学する場合、卒業後は博士課程への進学か、もしくは就職の2択です。インターンも含め就職活動は進学してから1カ月後には始まりますので、進学してから博士に進むか就職するのかを考えている余裕はありませんでした。就職活動はこれからも早期化することを考えると、大学院への進学を考えている人は進学前に大まかな方針を決めていたほうがいいですね」
Aさんは就職活動を通して、研究との両立が難しいことに加えて、文系の大学院生の就職の難しさも感じていた。それは文系の大学院生への理解が乏しい企業が多いことだ。
「面接の際に、大学院での研究内容まで踏み込んで質問していた企業はわずかです。内定をいただいた企業にはしっかり聞いてもらえましたが、多くの企業は『どんなバイトをしていましたか』『部活動はしていましたか』など、学部生を前提とした質問が中心でした。これはちょっと悲しかったですね。文系の大学院生が活躍するイメージを持っていない企業が多いのかなと感じました」
文系院生というだけで門前払いも
また、入社後の待遇も、理系であれば学部生とは区別されていることが多いものの、文系の大学院生には特段の優遇はない。学部生と同じ条件であり、むしろ年齢を重ねている分だけ不利な場合もあるかもしれない。実際に、文系の大学院生というだけで門前払いされた企業もあったという。
「エントリーシートを送ったら、文系の大学院生は受け入れていないと言われて、断られた企業も1社ありました。理由について説明もなかったので、びっくりしましたね。おそらく規模の小さな企業の場合は待遇に差をつけることができないので、はじめから院生を断ることもあるのではないでしょうか」
文系の大学院生が企業に評価されていない背景には、国の方針も影響しているのではないだろうか。文部科学省は2015年、全国の国立大学に対して人文社会科学や教員養成の学部・大学院の規模縮小や統廃合などを要請する通知を出した。人文社会科学系の組織を「社会的要請の高い分野」に転換するよう求めるものだ。
理系重視の動きはさらに進み、近年は科学技術関係予算が急増。2023年には3000億円の基金を活用して、理・工・農の3分野の学部設置などを行う大学に最長10年間で20億円程度まで支援する制度を始めている。
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