上野:背景から申し上げますと、日本のがん患者さんは、死亡の直前まで抗がん剤がずっと投与されているという実態があります。だいたい7、8割ぐらいの方が亡くなる3カ月前まで抗がん剤が投与されている。
抗がん剤は、がんを小さくできたり、治せたりする場合にはいいのですが、終末期になると効果が薄れがちです。そういった方に抗がん剤を投与し続けても、つらい副作用ばかりが目立つ。
患者さんにとっても、亡くなる直前の大事な時間に、病院に通って副作用と戦うことに多大なエネルギーを費やしてしまうことになります。
実際に早期から緩和ケアを実施した患者さんで、亡くなる前のQOLが改善しただけでなく、生存期間が延長したという研究報告もなされています。2023年に閣議決定された第4期がん対策推進基本計画でも、がんと診断されたときからの緩和ケアの推進が盛り込まれています。
国の医療経済的な面でも、抗がん剤のあり方は問題になっています。非常に高額な医薬品なので、死亡直前の患者への投与は国としても是正していきたい。
「終末期にも抗がん剤」を脱するには
井上:なぜ、抗がん剤が投与し続けられているのでしょうか。
上野:医師と患者の関係性というのは、「がんを治す」ことを目的として形成されています。患者さんの立場だと、自分からやめるとは言い出しにくい。医師の立場からしても、治療の中断は、ある意味で負けを認めることになる。
ここからミスコミュニケーションが生じ、亡くなる直前まで抗がん剤が投与され続けてしまう。
私たちはアプリを通じてこの問題を解消していきます。
いわゆる、アドバンス・ケア・プランニング(先々どんな医療やケアを患者自身が望むのか、関係者と話し合うこと)を行い、早い段階から緩和的なケアも行っていく。死亡直前の不適切な治療を防ぎ、患者さん自身の副作用を軽減し、不安やうつを抑えるのです。
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