素材にリサイクル、身軽な経営もサステイナブル TBM山﨑敦義は「それなりの成功」に満足しない

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実践の経営学を探究する井上達彦教授がディープテックを訪ね、ビジネスモデルをとことん問う。世界に羽ばたくイノベーションの卵に迫る。

石灰石から作られた素材LIMEX
石灰石から作られた素材LIMEX(TBM提供)
ドラマや漫画や飲料の話ではない。小さな巨人という名にぴったりの企業とはどこだろうか。
意外かもしれないが、AppleやTeslaもこれに該当する。AppleのiPodが音楽の流通革命を引き起こし、iPhoneが人々の生活を一変させた。TeslaのモデルSが電気自動車へのシフトを加速させ、EV革命を予感させた。
日本にも両者に比肩する小さな巨人がいる。環境配慮素材LIMEXをてこにして、経済社会のインフラを一変し、地球上のサステイナビリティを支えようと目論むTBMである。彼らの哲学はLess is Moreの持たざる経営、バランスシートを軽くして、すでにある設備やインフラを最大限に活用して社会にインパクトをもたらす。
ユニコーン企業TBMのビジネスモデルの実態に迫る。

井上:TBMといえば石灰石を使用した素材LIMEXが有名です。

山﨑:エコノミーとエコロジーを両立させる新素材として、グローバルでのLIMEXの普及に取り組んでいます。

紙をつくるには水資源がたくさん必要ですが、LIMEXであればその使用量を大幅に削減できます。プラスチックも代替できて、石油の使用量を抑えられます。CO2の排出も削減してカーボンニュートラルに貢献できるのです。

プラスチックの設備をそのまま使える

井上:LIMEX素材は、印刷物や袋、食品容器、文具、玩具、生活雑貨、包装、ラベルなど紙製品やプラスチック製品の代替として活用されています。世界的にも普及させることができる理由は何でしょうか。

山﨑:いろいろな理由がありますが、既存のプラスチック成形設備をそのまま使えるようにしたことが大きかったと思います。原材料をLIMEXに入れ替えれば、プラスチック製品の代替が作れるようにLIMEXのレシピを開発していったんです。

プラスチックの形づけは、真空成形とか、射出整形とか、ブロー成形とか、インフレーション成形などさまざまです。それぞれの方法に合ったレシピ開発をすることで、既存の設備でLIMEXを使ってもらえるようにしました。大きな投資をせずにLIMEX製品を作れるようにしたんです。

海外の機械でもストレスなく作れるので、工場を所有せずにLIMEXの生産拠点を増やし、製造業としての活動ができる。ここがうちの技術の強みでもあるんですね。この点を評価いただいて企業価値も高まりました。

日本でも世界でも普及させるために、レシピ開発と知財開発を一生懸命やってきました。

井上:そしてこのたび、リサイクル事業を始めましたよね。大胆に手を広げている印象もありますが、緊密に関連しているのでしょうか。

山﨑:まず、カーボンニュートラルに貢献できるLIMEX素材があり、次にそれを回収・循環していくのがサーキュラーエコノミーの実現を目指した資源循環の取り組みです。

これら2つを両方走らせていくことで、サステイナビリティが実現します。だからわれわれは、リサイクル事業に着手したんです。カーボンニュートラルに、サーキュラーエコノミーを掛け合わせて相乗効果を狙いました。

実際、LIMEXを販売するときにも、今後の回収やリサイクルが話題になります。そのときに、リサイクルの構想やストーリーがなければ心配されてしまう。資源循環の仕組みまできちんと考えて、実際に動いているという姿を見せていけば信頼や期待にもつながるんですよ。

次ページリサイクル事業に踏み出した理由
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