素材にリサイクル、身軽な経営もサステイナブル TBM山﨑敦義は「それなりの成功」に満足しない

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山﨑:日本の経済成長率は世界の196カ国中、160位ぐらいで、ずっとこの状態が続いている。先ほど話題にした国や地域は、20年間ずっと成長しているんですよ。だから、彼らの成長に対して、われわれがどう貢献していけるかを考えながら、自分たちの成長を一緒に乗せていく。

日本の国内市場にサービスを投入して、それなりのスピードでそれなりに成功し、それなりの企業価値になると、どうしてもそこで止まってしまう。

けれども、自分たちは違った。

「それなりの成功」のためにやってきたわけではありません。グローバルで、どれだけ社会に役に立つ事業を、このサステイナビリティっていう領域でやっていくのかにこだわった。

国内だけではパイの奪い合いになる

一見きれいごとのように感じるかもしれませんが、日本国内だけでものごとを考えると、どうしたってパイの奪い合いになってしまう。日本国内だけで新しいことをやると、既存のプレイヤーとの軋轢も生まれやすい。

でも、伸びている国と一緒であれば前向きに協力してもらいやすい。今後、成長著しい国々の中で、どうやって自分たちが力になれるかっていうことをつねに考えながらビジネスをやっていくことが大事なんです。

事業戦略としても、成長著しい国の規模とスピードの中で、自分たちがどう活躍できるかを考えたほうが、絶対に成長できるわけです。僕はもうそこに尽きると思います。

井上:社会的使命と事業の成功がまさに表裏一体というわけですね。大きな使命を軽快なバランスシートで果たすというのは、本当に素晴らしいと思います。今後のますますのご活躍を楽しみにしています。

TBM 設立:2011年8月 所在地:東京都千代田区 資本金:234億2993万円(資本準備金含む) 社員数:333人(2023年5月時点) 投資ラウンド:シリーズF(2023年6月時点)

 

TBM山﨑CEOと井上教授の取材風景
TBMの山﨑CEO(右)と井上教授(左)

 

 

 

 

 

経営学者・井上達彦の眼

ビジネスモデルというと一般的には「儲けの仕組み」と理解される。しかし事業の創造を担う起業家やそれを支援する投資家にとっては、それを超えた存在となる。
起業家と投資家の対話を促して未来を切り開く「強力な武器」となるのだ。
それゆえ名だたる起業家は皆、ビジネスモデルを用いたストーリーテリングがとても上手である。一方、投資家は、イマジネーションも働かせながら、そのビジネスモデルに将来があるかどうかを見極める。
ある投資家はビジネスモデルを豚の貯金箱にたとえる。
その貯金箱が何で構成されているのか、その構成要素を抽象化したものがBS(貸借対照表)、その結果として生み出された収入フローを抽象化したものがPL(損益計算書)というわけだ。そして、どの投資家も「ビジネスモデルを語るときは、PLだけではなくてBSも見る」という。
持続可能な世界に向けてESG投資が活発になる将来、多様なステークホルダーの理解を得るためには社会的な使命は不可欠となる。そして百戦錬磨の投資家の理解を勝ち取るためには、やはり資本効率が大切であり、より少ない投下資本で利益率を上げていく必要がある。
TBMのビジネスモデルは、この点で他に類を見ないお手本となる。既存の設備をそのまま使える素材でカーボンニュートラルに寄与し、他人資本の工場と既存の社会インフラを活用してリサイクルを実現する。
ボトルネックに絞って開発や設備に投資することでエコシステムを築くビジネスモデル戦略は、日本経済が活性化するためのカギになるのかもしれない。
井上達彦教授がディープテック16社を訪ね、ビジネスモデルをとことん問う連載記事はこちらから
井上 達彦 早稲田大学商学学術院教授

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いのうえ たつひこ / Tatsuhiko Inoue

1968年兵庫県生まれ。92年横浜国立大学経営学部卒業、97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)取得。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教授などを経て、2008年より現職。経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェロー、早稲田大学産学官研究推進センター副センター長・インキュベーション推進室長などを歴任。「起業家養成講座Ⅱ」「ビジネスモデル・デザイン」などを担当。主な著書に『ゼロからつくるビジネスモデル』(東洋経済新報社)、『模倣の経営学』『ブラックスワンの経営学』(日経BP社)などがある。

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