発酵食品のように微生物が働くバイオものづくり bitBiomeはゲノム解析と成果報酬モデルを駆使

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実践の経営学を探究する井上達彦教授がディープテックを訪ね、ビジネスモデルをとことん問うてゆく。世界に羽ばたくイノベーションの卵に迫る。

ゲノムのイメージ写真
遺伝子がものづくりのカギを握る(bitBiome提供)
毎年ちょっとした話題になるウィンブルドンの優勝賞金、今年はまだ発表されていないが、2022年の男女シングルスの優勝賞金は200万ポンド(約3億3000万円)であった。準優勝となると賞金は100万ポンド(約1億7000万円)と半額になるがそれでも大金である。
面白いのは、シングルス1回戦で敗れた選手も5万ポンド(約840万円)を獲得するという点。2回戦、3回戦、4回戦と勝ち進むにつれて報酬が上がっていく。
これと似たような構造が、創薬ベンチャーのビジネスモデルにも当てはまる。マイルストーン・フィー、すなわち開発の進捗に応じて成果報酬がもらえるという仕組みだ。これを食品や化成品にも応用しているのが、バイオものづくり企業のbitBiome(ビットバイオーム)株式会社である。
彼らの必殺ショットは「シングルセルゲノム解析」というゲノム解析技術である。すでに国内では「大学発ベンチャー表彰2022~Award for Academic Startups~」の経済産業大臣賞のタイトルを受賞し、世界的なスタートアップ・コンテストXTCの日本予選で優勝している。
トップテニスプレイヤーと同じく世界中のトーナメントに参加し、先のラウンドに進み、あわよくばチャンピオンシップをとって収益を伸ばす構想だ。今回は、技術と経営の両面に精通しているCTO津田宗一郎さんからお話を伺う。

井上:御社の事業について教えてください。

津田:環境に優しいSDGs志向のバイオものづくりをやっています。合成生物学と言われるんですけど、これまで石油から生成されていたものを、微生物に作らせる。簡単に言うと、いろんな化学変換を微生物にやらせるという技術です。

バイオものづくりへの関心は、近年どんどん高まっています。石油製品で作ると、高温高圧で環境にダメージを与えますし、その廃液とかも環境によくない。しかも石油や天然ガスのエネルギー資源は海外への依存度が高い。

一方、微生物は糖があれば化合物を作ってくれる。アミノ酸、創薬、バイオプラスチックなど、かなり環境に優しく製造できる。自給率も高くなります。

昔は発酵、今は遺伝子改変技術

井上:バイオものづくりというと新しい響きがありますが、日本の伝統的な発酵食品とやっていることは同じなんでしょうか。

Bitnbiome津田宗一郎CTO
津田宗一郎(つだ そういちろう)/博士 (生物学、神戸大学) 。グラスゴー大学など英国で10年にわたり生物学、工学、理論科学にまたがる学際的研究に従事。2020年10月よりbitBiomeに参画。2022年9月より現職。bitBiomeでは微生物シングルセルゲノム解析技術を活用したバイオものづくり事業開発をリード(bitBiome提供)

津田:はい、しょうゆなども目的の物をたくさん作ってくれる微生物を見つけて作られてきましたが、遺伝子改変技術が発達して、自分たちで微生物を設計できるようになったんです。

遺伝子情報は読み込みと書き出しの技術の双方があります。われわれは、ゲノム情報、DNAのシーケンサーで読むほうに特化しています。

一方、書き込むほう、すなわち編集のほうはバイオファウンドリが担っています。これまでは遺伝子を改変するといっても、1カ所か2カ所しかいじれませんでしたが、ロボットで自動的にスクリーニングすることで同時に1000カ所いじれるようになりました。たくさん編集して、いろんなところに情報を書き込める。

そのバイオファウンドリ、あるいは製薬、食品、化合物メーカーが「こういう遺伝子が欲しい」と言うんです。そのときにデータを提供します。

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