悩めるスバル、アメリカで新車が"瞬間蒸発" たまらず生産能力の増強計画を前倒し

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「工場は一度構えたら、後でそう簡単に変動させられない」と生産能力の増強には慎重な考えを示してきた吉永社長

吉永社長は常々「供給が需要に少し足りないくらいがちょうどいい」「在庫の山ができてインセンティブ(販売奨励金)を増やして売るわけにはいかない」と、供給能力の拡大には慎重だった。それだけに、今回の前倒し増強は”大胆”な決定にも映る。

ただ、5月8日の決算会見では、「供給過剰にならないように計算した上での決断。2015年は新型車が1つもなく心配していたが、予想外に好調を維持しているのは大きい。2016年以降はインプレッサを皮切りに新型車が相次いで出てくる」(吉永社長)と自信を見せた。

むしろ懸念は、インプレッサの生産を米国に移管した後の国内生産だろう。「フォレスター」など他車種の北米輸出は続くが、次に重視する日本や中国での売れ行きが芳しくない。2016年3月期は日本が11.4%減の約14万台、中国も7.7%減の5万台と前期実績を下回る計画で、今後の巻き返しが重要な課題といえる。吉永社長も「この先の舵取りは難しい。北米と中国、国内のバランスをどう取るべきか考えている。国内工場の操業度低下は避けたい」と語っている。

「ヘルメットをかぶっていく」

もっとも、全体で見れば2016年3月期も業績は過去最高を更新する計画だ。営業利益率は16.6%を見込んでおり、円安効果が大きいとはいえ、世界の自動車メーカーでもトップクラス。収益の牽引役は、今や販売台数の6割近くを占める米国が担っている。

 今月中旬、吉永社長は米国で開催される全米ディーラー大会に出席する。「ディーラー側にはスバル車のために投資する意欲がいくらでもある」(吉永社長)というだけに、米国工場の能力増強は、品薄に泣くディーラーに対する”誠意”ともいえる。「(供給増を急かす)ディーラーにたたかれるといけないからヘルメットをかぶっていかないと」吉永社長がこんなジョークを飛ばせるのも、思い切った決断を下したからこそだろう。

スバルの米国シェアは3%を少し超える程度。逆に言えば、アクセルを踏み込めば拡大の余地は十分にある。今後、設備過剰に陥ることなく「足りない」とせっつくディーラーからの要望にどこまで応えていくのか。好調が持続すればするほど、追加投資の判断がより難しくなりそうだ。

(撮影:今井康一)

 

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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