なお、「こども未来戦略方針」が謳うように「全世代型で子育て世代を支える」ために子育て世帯・世代の受益がネットではプラスになる政策を充実させていくとしても、支援策の中の一部を構成する現金給付については、これをより必要とする子ども、世帯に集中していこうとする動きは、給付の有効性という観点から当然起こる。
社会保障の世界では、1950年代末にティトマスが提示し、1970年代にアトキンソンが強調した「ハーモナイゼーション問題」として位置づけられ、税制を通じた租税支出(tax expenditure)である所得控除と、それとは別ルートで整備されてきた手当の調整問題として意識されていた。
具体的には、公的年金給付や児童手当の拡充の中で起こった問題である。後者については、子ども・子育て支援という同じ目的を果たす児童扶養控除と児童手当との調整問題が起こる。児童扶養控除は高所得者ほど給付(税金支払いの減少)が大きくなるため、これを子ども1人ひとりに等しく給付が行われるように定額の手当へと調整を図り、再分配効果を高めていくことである。
こうした児童手当の拡充とともに児童扶養控除を廃止するという調整は、現物給付の拡充を含めたトータルで考えれば、結果として子育て世帯のネットでの給付はプラスになる。そのような理解の下に、今では政府依存型福祉国家として知られるデンマーク、ノルウェーは1960年代初期に、西ドイツや英国、そしてオーストラリアなどは1970年代に児童扶養控除と児童手当の調整を進めていった。
「ネットの給付」で考えると、物事はクリアになる
また、日本では、しばしば「社会保険料率の抑制は、労使双方にとって所得増をもたらす」という文章をみることがある。しかし、こうした「社会保険料の可処分所得圧迫」論は、現物・現金の形で社会保障の給付を受けることがない使用者にとってはそうであろうが、現物・現金給付を受け、ネットの給付で考えるべき労働者までがこの論を鵜呑みにすると、「上編」で触れた、家族依存型の福祉国家へ日本が戻り、家族が疲弊し所得分配の格差は大きい社会になっていくおそれがある。
欧州の各国では、日本では逆進的であると一方的に批判され否定されてきた消費税(付加価値税)が、社会保障の財源として大いに活用されている。消費税(付加価値税)の納税額は、より多くの消費を行う高所得者ほど多くなり、社会保障の給付は中低所得者のほうが多い。やはり、ここでも負担だけを考えるのではなく、ネットの給付で考えることが重要である。
それゆえに、付加価値税を大いに活用した欧州各国のほうが、日本よりも所得分配の格差が縮小された社会を実現できている。この辺りは『もっと気になる社会保障』第12章「日本人の租税感」および第14章「社会保障の再分配機能」を参照してもらえればと思う。
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