そこで滑川市は、「部活動指導が超勤4項目に含まれず、これを担当する各教員の広範な裁量に委ねられていることをもって」、安全配慮義務に「違反したとされるのは、その監督する教員に外部から認識し得る具体的な健康被害又はその徴候が生じていた場合に限られる旨主張」し、本件では校長はそうした兆候を認識しうる状況になかったことから、責任はないと、抗弁していた。
これに対して、裁判所は、「部活動指導が当該学校の教員としての地位に基づき、その業務として行われたことが明らかな場合にまで、部活動指導とそれ以外の業務を区別して校長の上記義務の内容を画するのは相当でないし、過重な長時間労働が労働者の心身の健康を損ねることが広く知られていることに照らせば、本件において、校長の予見義務の対象を外部から認識し得る具体的な健康被害又はその徴候が生じていた場合に限定すべき理由は見出し難い」。「顧問としての業務が本件中学校の教員としての地位に基づき、その業務として行われたことは明らかであり、その内容及び時間を部活動指導業務記録簿や特殊勤務実績簿等で把握できた以上」、「校長に予見可能性がなかったとはいえない」と判断した。
校長(ならびに服務監督権者もしくは任命権者である教育委員会)の責任を認める判決は、ここ数年相次いでいる。
2014年に自死した新任教諭、嶋田友生さん(当時27歳)の事案では、19年に福井地裁は、校長が過重な勤務を軽減するなどの措置を取らず、安全配慮義務を果たさなかったと判断して、損害賠償を認めている。17年に適応障害を発症した大阪府立高校教諭の西本武史さんの訴訟でも、22年に大阪地裁は校長の安全配慮義務違反を認定した。
いずれも地裁の判決ではあるが(本件も含めて、いずれも控訴しなかった)、これらの裁判に共通するのは、校長が超過勤務命令を出していたかどうかは関係なく、実際、過重な業務負荷があったこと、心身の健康を害しかねないことを校長は認識しえたのだから、安全配慮義務を果たすべきであった、という判断である。
校長には教職員の命を守る責務があるということであり、「定額働かせ放題」ではない(関連記事)。
くれぐれも、今も過酷な状況で働いている教職員の方(教育委員会職員らも含めて)は、注意してほしい。在校等時間が長いと、校長や教育委員会からガミガミ言われるかもしれないが、勤務時間の過少申告や土日の部活動などは記録しない、手当を申請しないといった行動を取るのは、やめてほしい。校長などは過重負担を認識しえなかった、健康を害する予見可能性はなかったと裁判などで判断されてしまうかもしれないのだから。
人が死んでも、調査もしない、検証しない、学ばない
Aさんが亡くなった当時、妻は2人目を妊娠中でもあった。子育てもあり、夫の死を追体験しかねない、過酷な裁判を起こしたのはなぜか。それは、人が亡くなっても、校長も、教育委員会も、誰も、責任を取ろうとしないからではないか。
児童生徒がいじめなどによって自死することも、毎年のように起きている。そうした場合、まだまだ内容やスピードで十分ではない点も多々あるとはいえ、背景や原因について調査が入ったり、第三者委員会で一定の検証がなされたりする。そのうえで、学校側や教育委員会側が適切な対応を取らなかったと認められる場合には、しかるべき処分が関係者に下される。