金総書記の妹が《大韓民国》と括弧でくくった訳 北朝鮮流の皮肉を込めた表記で対立を深める
実際に、2022年5月に韓国で尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領率いる保守政権が登場して以来、北朝鮮は韓国に敵対的な姿勢を示してきた。金総書記と首脳会談を行うなど、相対的に北朝鮮に融和的だった前の文在寅(ムン・ジェイン)政権とは違い、尹政権はアメリカや日本との安保関係を強化し、北朝鮮には強硬な姿勢を示しているためだ。
「強硬には超強硬」の姿勢を示すのが北朝鮮の常。今回は表記であえて強い姿勢を示すため、≪大韓民国≫と表記して皮肉を込めた韓国批判を行ったとみることができる。
これに少なからず衝撃を受けているのが、韓国側だ。現在は対北強硬の保守政権であっても、大統領選挙では尹大統領は僅差で勝利した。言い換えると、前政権の対北政策を継ぎ融和的な政策を支持する政党や国民も多く存在する。
韓国の全国紙「ソウル新聞」は2023年7月13日の社説で、「北朝鮮がそれまで統一を志向する同じ民族同士の特殊な関係と見なしてきた南北関係を、国家関係、敵対国としての関係へ変化させようとしていると韓国側では受け止めている」と韓国内の状況を説明する。
経済紙で最大手の「毎日経済新聞」も同日の社説で、「今後、『同族』という特殊性に配慮せず、われわれを同族ではない別個の国、すなわち敵対国家に分類し、無差別的な対南挑発に出るという露骨な脅迫として聞こえる」としている。
同時に、北朝鮮が実際に韓国に対する姿勢・政策を再構築しているのではないかとの見方が韓国側から出ている。それは、ある人事が注目されているためだ。
注目される重要人物の人事
2023年6月19日、北朝鮮の国営朝鮮中央通信は「党総会で金英哲(キム・ヨンチョル)氏が政治局候補委員に選抜された」と伝えた。同日の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」には同氏の写真が掲載され、写真の下には「統一戦線部顧問」と表記されている。
金英哲氏は2019年、ベトナムのハノイで行われた2回目の米朝首脳会談で「合意なし」で終わった責任を強く問われた人物とされている。2021年の朝鮮労働党第8回党大会では、それまでの「党中央委員会対南担当書記」という職責が廃止されて統一戦線部長となったが、これは降格人事だとされた。さらに昨年6月には、統一戦線部長職からも追われた。
したがって、金英哲氏が事実上復帰したことについては、日米韓3カ国が共同で北朝鮮への圧力を強めようとしている中、北朝鮮も強硬派と知られ、経験も豊富な金英哲氏を復帰させ、韓国やアメリカへの強硬姿勢を強めようとしているのではないかと見られている。
今回の金与正・副部長による談話も、「アメリカ軍が北朝鮮への監視を強めている」という点を問題として取り上げ、発表されたものだ。こうした北朝鮮の考えは、今年5月29日に、朝鮮労働党中央軍事委員会の李炳哲(リ・ビョンチョル)副委員長が、「6月に軍事偵察衛星1号機を発射する」という内容を骨子とする「立場表明」をしてから顕著になっている。実際に発射されたのは5月31日で、打ち上げは失敗に終わった。
この「立場表明」は、アメリカ軍の原子力潜水艦や偵察機が朝鮮半島に常時配備されたことに対抗するものであり、北朝鮮側も米韓両軍の動きを監視するために軍事偵察衛星が必要だと主張した。1回目は失敗したが、北朝鮮は2回目も、ひいては成功するまで衛星打ち上げを試みるのは間違いない。
金副部長の談話は、北朝鮮としては「金総書記が公の場で言ってしまうと立場上問題になりかねない、いわば本音に近いことを代弁している内容や表現」だと見られる。それでも金副部長は談話を出すたびに、韓国への強硬姿勢があらわになってきている。
米中対立が継続している中で、南北関係の対立が日米韓と中ロ北という大きな枠での対決構図にまで発展しはしまいか。そうなると、日本も重大な安全保障上の危機を迎えることになる。
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