五輪に不安「フランス暴動」発生1週間も止まぬ深層 警察官によるアルジェリア系少年の射殺がきっかけ

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4日までにわかっていることは、射殺された少年はアルジェリア系移民のの子で、経済的に厳しい環境に育ったこと、警察当局によれば、犯罪歴はないものの、無免許運転、保険未加入などで5回も交通検問でとがめられ、警察に従わない少年として地元警察に知られていた。今年9月には当局への出頭を求められていたという。

事件の流れについて、車に同乗していた同僚がメディアに答えたところによると、少年らは警察の追跡から逃げており、何とか車を制止させた警察官に「言うことに従わなければ撃つぞ」と車窓越しに言われ、拳銃を構えられた。少年はパニックに陥り、車を発進。警察官は指示に従わなかったとみなし、発砲したようだ。

一方、身柄を拘束されている警察官の弁護士は、本人は不当な逮捕で警察の定められた手順に従って行動しただけと主張している。

ただ、警察側が当初発表した少年の車が警察官を襲って来たので発砲したという内容と、実際に現場で記録された映像に隔たりがあったことから、当局は警察官を守るための隠蔽を行おうとしたと受け止められ、移民系の若者の怒りに火が付いた。

ダルマナン内相は「公権力乱用の疑いがある」として、警察官の身柄確保を急ぎ、起訴したが、暴動はエスカレートしている。

収まらない青少年たちの怒り

パリ南郊ライ=レ=ローズでは2日早朝、市長が市庁舎にいる間に何者かによって引火物を積んだ車が市長宅に突っ込み、妻と子どもが負傷する事件が起きた。前日には暴徒が市役所に火炎瓶を投げ入れて乱入しようとしたほか、町中で襲撃が繰り返されたことから、外出禁止令が出された。

内務省によれば2日朝時点で、フランス全土で約5000台の車両が放火され、市役所など公共の建物が1000棟近く焼失または破壊され、警察署や憲兵隊兵舎への襲撃は250件に上った。フランス南部マルセイユではゴム弾に当たった通りがかりの男性が呼吸困難で死亡した。

死亡した17歳の少年の祖母は、テレビを通じて「少年を殺害した警察官に正義の判断が下されるように」と主張した一方、「窓を割らないように、学校やバスを破壊しないように」と訴えたが、それでも青少年たちの怒りは収まっていない。

フランスメディアは2005年にパリ東郊外でパトカーに追われる若者が変電所に駆け込み、感電死したことを受け、全国に暴動が広がったことを忘れていない。公権力の中から人種差別を読み取り、激しく抗議するパターンはそのときと変わっていない。しかし当時、暴徒が標的とするものは広範ではなく、今回は暴動参加者が低年齢化しているのも特徴だ。

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