アダルトビデオ界の大物が切り拓く"新境地" 異色経営者DMMグループ亀山敬司伝<3>
16年前に家族ともども上京したのは、名もなき一般人の生活に戻りたかったという面もある。「田舎は狭いからエロやって稼いでいる金持ちで有名だった。時には尊敬され時には軽蔑される微妙な立場。それが東京に来たら誰も(自分を)知らないから普通に近所付き合いできる」と亀山はしみじみ語る。取材は顔写真NGだが、顔が売れると一般人扱いされなくなるとの思いからだ。
亀山がAVで成功を収めたのは加賀の土地柄と無縁ではあるまい。北陸人の堅実さと温泉街の一種猥雑さが入り交じり、商売の貴賎は軽やかに相対化される。亀山がAVを始める時、家族は「あっ、そう」とだけ言い、誰も反対しなかった。実母は80歳を過ぎても加賀事業所の食堂で賄い仕事に精を出す毎日だ。
最後は全部なくしたい
妻との間には一男一女をもうけた。長男は今春、新社会人となったが、じつは亀山に内緒でDMMの面接を受け不採用になっていた。そのことを亀山は愉快げに話す。子供に会社を継がせる気はもともとない。「苦労なく楽しく商売してきた」という亀山からすると、継いだ会社の現状維持で汲々(きゅうきゅう)としている2代目経営者は可哀想な存在だ。破滅型とは到底見えない亀山だが、将来については意味深にもこう語る。「最後、全部なくなることが理想」と。
絶好調だった証券子会社が2014年3月期に一転して大赤字を計上し、安定成長を続けてきたグループ経営は異次元に入った感もある。中核業種の特殊性もあり株式公開をする考えはない。グループの全体像がつかみにくい点はぬぐえないが、亀山に会ってみると、これほど偉ぶらず地に足の着いた経営者も今どき珍しいと感じる。その人生を亀山はどう全うするのか。いっさい予測できないところが、この男の魅力なのかもしれない。
=敬称略=
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