イギリスでは、コロナ以前の5回の不景気での金利切り下げは平均5.5ポイントだった。だが 2009年以降、米英欧の中央銀行が設定した平均金利は、それぞれ0.54%、0.48%、0.36%だ( 2021年4月までのデータ)。金利について言えば、中央銀行の持ついわゆる政策余地はきわめて限られている。
労働者や企業がヤル気を失っている問題
21世紀経済の最後のがっかりする特徴は、経済学者が話題にするものではないが、一般人の会話には大きく登場している。それを、正統性欠如またはフェイク性と呼ぼう。労働者や企業は、かつて持っていた本来あるべきヤル気と正統性を失っているという考えだ。
人類学者デヴィッド・グレーバーの「ブルシット・ジョブ」批判を考えよう。「何やら不思議な錬金術を通じて、書類をまわすだけで月給がもらえる連中の数は究極的に増えるようで」、それなのに「クビになったりせっつかれたりするのはいつも、本当にモノをつくり、動かし、直し、維持管理している人たちなのだ」。
グレーバーの批判は、現代世界は「シミュラクラ」に支配されていると主張したジャン・ボードリヤールのようなポストモダニストの足跡をたどっている。シミュラクラとは、根底の現実から切り離された模倣やシンボルで、それがディズニーランドのように独自の命を得たものだ。
同様に、保守派の評論家ロス・ドゥザットは、現代の頽廃の特徴は、文化、メディア、エンターテインメントにおける独創性欠如と模倣の蔓延なのだという。現代世界は、過去とはちがう形でリミックスされ、ナレーションされ、キュレーションされているのだ。
この見方には世間も同意する。製造業は有権者にはきわめて評判がいいし、政府はそれをもっと促進すべきだとされる。