宇都宮LRT、8月開業時ダイヤが「控えめ」な事情 運行開始までに「延期」を重ねた紆余曲折も

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工事着手後の開業延期はこの2回だが、計画段階から見ればさらに延期を重ねてきた経緯がある。市は2013年3月に「新交通システム」としてLRTの導入を明記した「東西基幹公共交通の実現に向けた基本方針」を策定。佐藤市長は2014年初頭の記者会見で「着工は2016年度を目標、2018~19年あたりに開業できれば」と述べた。

LRTはインフラを宇都宮市と芳賀町が整備・保有し、開業後の運行は第三セクターの宇都宮ライトレールが担う「公設型上下分離」方式で運営するため、国に「軌道運送高度化実施計画」の認定を受ける必要がある。市・町とライトレールの3者が同計画を提出したのは2016年1月。同年9月に認定され、この時点では2019年12月の開業を目指していた。

だがその後、市は住民への説明の深度化などを進めたうえで2017年度着工、2022年度開業の方針を示し、当初見込まれていた2020年東京五輪開催前の開業は消えた。結果的には、2017年度末となる2018年3月に工事施工認可を受け、同年5月末に起工式、そして6月に本格的な工事が始まった。

芳賀・宇都宮LRTをアピールする看板
かつて宇都宮駅東口にあった2022年度開業予定をアピールする看板=2018年(記者撮影)

予想どおりの需要はあるか

工事の遅れや試運転中の脱線などさまざまなトラブルを乗り越え、開業目前となったLRT。だが、今後も課題は少なくない。

市などが運行計画で示している需要予測は、平日1日当たり約1万6300人。市によると、これは2016年に軌道運送高度化実施計画を申請した際の数値という。コロナ禍により乗客数が以前と同レベルに戻らない鉄道が多い中、LRTの需要予測はコロナ前の数値から変えていない。市の担当者は、「コロナの影響は一過性の部分もあるので、とくに見直しはしていない」といい、「利用促進に向けた働きかけをしていきたい」と話す。

市がウェブサイトなどで公表しているLRTの運営収支は、需要が定着した開業後4年度の時点で年間約1.5億円の黒字化、9年で累積損失の解消を見込む。利用が予想を下回った場合、この見通しを達成できない可能性もある。過去に建設費の大幅増などがあっただけに、これが大きく後ろ倒しになれば新たな批判を招きかねない。マイカー社会の中で、いかに利用の定着を図っていくかが大きな課題だ。

市は駅西側へもLRTを延伸する計画で、2030年代の開業を目指している。沿線地域だけでなく、全国の交通関係者や自治体などの注目を集める芳賀・宇都宮LRT。起点となる宇都宮駅東口停留場の所在地は「宇都宮市宮みらい1番1」だ。今回の開業は、市が進める交通政策、そしてLRTという交通機関が国内に根付くかどうかの、まさに一丁目一番地といえるだろう。

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小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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