【産業天気図・銀行業】資金需要増加だが企業業績悪化で与信費用が増加、債券運用益も低下へ
11年4月~9月 | 10月~12年3月 |
銀行業界の景況感は2011年4月から1年通して、前年同期を下回る「下向き」にとどまりそうだ。震災影響で景気後退が懸念される中、銀行にとっては企業業績悪化による与信費用の増加が懸念材料だ。
前年度の前半(4月~9月)は与信費用が極端に少ないうえ、金利の低下局面(債券価格は上昇)をとらえて売却益を計上したことが業績に大きく貢献した。三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループの3メガバンクの純利益合計は1兆円超。足元ではむしろ長期金利がジワジワと上昇しており、前期のように多額の債券益を計上することは難しい。
全国銀行協会の統計によると、11年3月末の貸出残高は前年同期比0.8%減と17カ月連続で減少。だが、東日本大震災の影響で先行きが不透明になり、直接市場での資金調達も難しくなっており、銀行借入で手元流動性を積み増しに動く企業が増えることで、銀行の貸出残高は増加するとみられる。中でも、3月末に銀行借入で約2兆円を調達した東京電力のケースが象徴的といえる。
一方、震災影響による供給制約や消費の低迷など景気の下押し圧力が強まる中、銀行にとっては企業業績悪化による与信費用の増加が懸念材料になる。銀行業界を長く担当するJPモルガン証券の笹島勝人アナリストは、「阪神大震災のあった1995年は金融危機の入り口だった。だが、今回はセーフティネットが整備されており状況が異なる。後々の復興需要をいかにマクロ全体の成長へと結びつけられるかが重要」と話す。
金融庁では今回の事態を受けて、金融検査マニュアルの運用内容を変更した。被災地に限らず震災影響を受けた債務者の赤字や返済延滞を「一過性」のものと判断出来る場合、銀行は債務者区分の引き下げを行わなくてもよいことを明確化している。時限立法の1年延長が決まった中小企業円滑化法においても、貸出条件変更に応じた中小企業などが震災の影響を受けている場合、経営計画の策定猶予期間の延長(最大1年)を認めている。