中国が主導権を握っている「戦略物資」の地政学 「クリティカルミネラル」確保に各国が動く事情
今後、需給逼迫によってクリティカルミネラルの価格高騰が起これば、その物質の入手はそれまでと比べて難しくなるでしょう。また、電気自動車や風力タービンなどの生産コスト、そして再生可能エネルギーの発電コストなどを押し上げることにもつながりかねず、現在世界で進められている脱炭素化の進行スピードに影響を与えることも考えられるのです。
存在感を示す中国にアメリカは神経を尖らせる
クリティカルミネラルの問題は今後の需給の逼迫とそれに伴う価格上昇だけではありません。偏在性が高い物質が多い=供給国が一部に偏る特徴があります。これが戦略物資としての重要性を高めています。ほとんどの国ではどれだけリサイクル率を高めても自国内での確保は難しく輸入に頼らざるをえません。
この事実は、あるクリティカルミネラルの需給が逼迫した場合、その物質を持っている国・地域の影響力が増大することを意味します。
例えば、電気自動車のモーター用磁石の材料となるネオジムやジスプロシウムは、いずれも生産量では中国が圧倒的なシェアを持っています。またバッテリーに使われるニッケルやコバルトは、それぞれインドネシア、コンゴ民主共和国が大きなシェアを占めています。
とくにネオジムは、あと数年で需要が供給量を上回り、2050年までには現在の4倍以上の需要が発生するとの見通しがあります。
もし、脱炭素のために電気自動車の普及を図れば図るほど、ネオジムの需給は逼迫。それに伴って、ネオジムのシェアを持つ中国の市場支配力が強まり、価格支配権や生産調整で世界に影響を及ぼす〝カード〟となりえます。
このような状況に神経を尖らせているのが、中国と対立を深めるアメリカです。カーボンニュートラル実現のために不可欠な資源を戦略的な競争相手である中国が押さえることになれば、脱炭素を重点政策にかかげるバイデン政権にとって大きな懸念となります。
もし中国が戦略的な意図を持ってクリティカルミネラルの需給調整や供給削減などを実施したりすれば、経済安全保障上の大きな問題になることも考えられます。
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