JR「リニア高架橋」山梨で進捗、どうする静岡? 川勝知事「珍説明」で時間稼ぎの間に他県は先行

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高架橋の公開の前日となる5月29日、川勝知事の定例記者会見が行われた。1~2年前の定例会見では、川勝知事のリニア政策に異を唱える質問はあまり見られなかったが、最近は様変わり。この日も川勝知事の主張を疑問視する質問が相次いだ。

県がJR東海に対して「本県が合意するまでは、リスク管理の観点から県境から山梨県側へ約300mまでの区間を高速長尺先進ボーリングで削孔しないことを改めて要請いたします」という文書を5月11日付で送ったことに対して、山梨県が行政権の干渉を懸念していることを報道陣が指摘すると、川勝知事は「掘るなとは言っていない。JR東海に質問しているだけだ」という“珍回答”で強気の姿勢を維持した。

さらに、報道陣の質問は2019年に掘削工事が始まり、最近貫通した長野と静岡を結ぶ三遠南信自動車道の青崩峠トンネル(全長約5km)の話題にも及んだ。質問によれば、このトンネルの調査坑掘削の際、毎分200ℓの湧水が長野県側で確認されていたという。「大井川の水は1滴も他県に渡さない」と主張する川勝知事が、なぜ工事に反対しなかったのかという問いに対して、川勝知事の回答は、「青崩峠トンネルとリニアの南アルプストンネルは同列の工事ではない」。リニアの工事は別物だというのだ。これなら、あらゆる難癖をつけて、リニアのトンネルを特別扱いして工事を認めないことができる。

外堀が埋まりつつある川勝知事

もっとも、今では大井川流域の自治体や利水者などからもJR東海案を支持する意見が出ており、川勝知事の強弁に対する外堀は埋められつつある。そんな状況もあってか、最近の川勝知事は水資源に加えて、掘削土の問題も持ち出している。

5月31日、沿線10都府県で構成されるリニア中央新幹線建設促進期成同盟会の総会が都内で開かれ、早期の全線整備に向けて一致協力して「強力な運動」を展開するという決議が採択された。具体的な工区としては静岡工区だけが名指しで「早期着手を図る」と釘をさされた。当然、川勝知事も同意しているのだから、これまでのようにあれこれ理由をつけて工事開始を引き延ばすことは許されない。

一方で、期成同盟会に設置され山梨県が事務局を務める「高速交通の将来像に関する研究会」では、東海道新幹線に静岡空港新駅を設置し、リニアや高速道路と結ぶ高速交通ネットワークを形成するという構想を発表するなど、静岡県の立場に配慮した局面もあった。

山梨県内に登場したリニアの高架橋の取材には、静岡県のテレビ局もやってきた。「難しい建築用語を視聴者にわかりやすく伝えたい」と、リポーターがJR東海に言葉の意味を逐一確認していた。静岡県内でも他県の進捗状況が報道されることで、静岡の状況がいかに特異なものか県内でも認識されるはずだ。そろそろ、川勝知事も工事を認めるべきではないか。建設で先行する他県は、リニア開業に伴う県の将来像の具体化に向け動き出している。静岡県もリニア反対にこだわるより、リニアを契機として空港新駅など県民の利便性向上のための策を練るほうがずっと建設的だ。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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