格安切符で旅客急増、ドイツ鉄道で多発する遅延 インフラ投資必須だが「鉄道優先政策」揺らぐ
DBのCEO、リヒャルト・ルッツ氏は、「(引き続き)気候に優しい移動手段がブームになっていることから、需要は好調で、力強く成長し続けている。2023年には長距離列車の利用者が1億5000万人を大幅に上回り、新記録を樹立する可能性がある。そのためドイツに相応しい、より効率的で時間に正確な鉄道システムを提供するため、できるだけ早く改善を行うよう、努力している」と語っている。
改善とは定時運行など、鉄道輸送における基本的なサービスのことだ。今のドイツ鉄道のシステム全体は、増え続ける需要に対応するにはいささか不十分で、インフラは老朽化し、故障やトラブルも多く発生。線路容量もこれ以上の増発には耐えられないほど逼迫している。
そのため、近年はドイツ全土でインフラの改善や新線の建設などが進められたが、その影響もあって2022年のドイツ鉄道は過去に前例がないほど定時性が悪化し、長距離列車の定時到着率は65.2%と過去最低の数値を記録した。全体の3分の2以下の列車しか定時運行されていない計算で、2021年の75.2%から10%も悪化したことになる。特に7月から8月にかけては、60%以下にまで落ち込んだ。
5本に1本「15分以上の遅れ」
ドイツ鉄道の定時到着率は、6分以上の遅れという基準によって計算されている。つまり6分未満の遅れについては定刻とみなされている。秒単位の遅れですらお詫びの放送をする日本の感覚からすると、かなり緩い基準と言わざるをえないが、もし日本式に5分以内の遅れまで含めれば、この数値はさらに悪化することになるはずだ。
7月から8月にかけての定時到着率の落ち込みは、9ユーロチケットによる利用客数の急激な増加が原因と結論づけている。
実際、販売期間中のドイツ国内は混乱と呼ぶに近いほどの利用者があり、9ユーロチケットを利用する乗客が殺到したことでローカル列車が遅延、その影響を受けて同じ線路を使用する優等列車にも軒並み遅延が発生。実に5本に1本の優等列車に15分以上の遅れが発生していた。販売終了後の9月以降は少し改善されている。
9ユーロチケットのインパクトは大きく、販売数も利用客数も大変好調で大きな収益となった反面、あまりの混雑ぶりにドイツ全体の交通網が完全にキャパシティオーバーとなり、サービスの低下に繋がった。2023年からは販売方法は変更されたものの、条件はほぼ変えず、49ユーロ(約7310円)へ値上げして通年販売へと切り替えたが、これが収益と混雑率にどの程度の影響を与えるかが一つの注目点となる。
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