運賃無料イベントで見えた地域公共交通の「未来」 とさでん交通「無料・ワンコイン施策」成果は?
ワンコインデーの利用者については、実施当初は前年の無料デーの7割から9割程度であったが、終盤にかけて利用者がじわじわと増加。最終的には、前年の無料デーと比較して電車が1.05倍、バスについては0.9倍となり、ICカード乗車券「ですか」と電車とバスの便利さを高知市民に実感をしてもらえることになった。
普段は自家用車を足にしているという高知大学地域協働学部4年の伊藤美紀さんも、「高知市中心部に出る際は、自家用車だと駐車場を探すことで時間を取られるうえに料金もかかるため、『ですか』の利用で公共交通機関の便利さを実感できた」と話している。
コロナ前から課題が山積みのとさでん交通
とさでん交通と高知市では、2年連続でキャンペーンを行い経営状況の改善を目指して利用促進の取り組みを行ってきたが、将来への不安は消えないままだ。とさでん交通は、2014年に土佐電気鉄道、土佐電ドリームサービス、高知県交通の3社が経営統合し、新たに高知県や高知市、周辺自治体が100%を出資する第三セクター企業として設立された会社だ。経営統合前は、土佐電気鉄道・高知県交通の両社で路線バス事業の事業者負担における赤字累積が約47億円であり、累積債務も約75億円に上っていた。こうした状況を踏まえて、今後、経営を維持していくことは非常に困難であるとして、県内の公共交通を維持するためにも、金融機関に対して債権放棄を求めたうえで、第三セクター企業として再スタートした。
しかし、年々、深刻化する乗務員の高齢化問題や老朽化する設備への投資に資金が回らないなど依然として課題は多い。経営面では、2019年度に約25億円だった金融機関からの借入金が、コロナ禍の影響を受け2020年度には約38億円に急増している。とさでん交通が2022年1月に公表した今後5年間の中期経営計画では、行政による追加支援がなければ資金ショートに陥り、再び債務超過に陥る可能性があることが示された。
このような現状に、出口氏は、「国や県の補助制度をさらに充実させること」が必要だと訴える。 しかし、限られている予算の中で、どのようにすれば、公共交通を取り巻く状況の改善に向けた行政の財源確保および制度の新設ができるのだろうか。
鉄道・交通政策に詳しい関西大学経済学部の宇都宮浄人教授は「公共交通の運営に対して地方交付税交付金をあてがうなど、交付税関係の措置を公共交通に手厚くすることや、道路予算を再配分する、例えば、道路関係予算の1%を地域公共交通に関することへまわすことが考えられる」と述べている。
疲弊する公共交通の状況を改善するには、このような思い切った対策が必要だ。
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