北海道の旧胆振線「鉄道代替バス」も分断の必然 伊達市側と倶知安側の間に旅客流動の「分水嶺」

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壮瞥役場前を出ると、なだらかな山地に囲まれた盆地の中を快走する。リンゴをはじめとする、果樹園が目立つ。壮瞥町の主産業は農業と観光だ。町内にある北海道壮瞥高等学校は壮瞥町立で、農業高校である。翌日の朝、伊達駅前で見た8時00分発の伊達大滝線は高校生の利用が見られた。この学校の生徒と思われる。

一方で、伊達緑丘高校行きや上稀府行きのバスにも高校生が乗車。北海道伊達緑丘高等学校の生徒だが、この学校は2021年4月1日付で北海道伊達高等学校と再編、統合されて、北海道伊達開来高等学校となっている。北海道伊達緑丘高等学校は在校生全員の卒業をもって、2023年3月31日に閉校。胆振線とは直接の関係はないが、道南バスにとっては通学の生徒の流れが変わり、対応を求められる事態が生じた。

蟠渓まで来ると谷の幅が狭くなり、小さいながらも川沿いの温泉街に入る。ところが次の北湯沢駅跡付近まで来ると、大型温泉ホテルが現れて少々驚く。廃線跡も遊歩道になっているようだ。バス停名も北湯沢温泉である。2000年代に入ってから旧来の温泉地でリゾート開発が行われたとのこと。胆振線が観光客輸送を重視する第三セクター鉄道になっていれば、何らかの提携が行われたかもしれないが、今ではバスで訪れる客もほとんどいないだろう。

こうした旅館、リゾートホテルは必ず送迎バスを持っている。しかも、伊達紋別どころか新千歳空港やJR札幌駅まで送迎する旨が、公式サイトでも明記されている。北海道新幹線が倶知安へ通じれば、また別であろうが、旧態依然とした鉄道や路線バスでは、利便性でも乗りものとしての魅力でも、観光客へアピールするところが少ないと思われていることだろう。

伊達市の飛び地の端が終点

北湯沢からは伊達市大滝区(鉄道廃止時は有珠郡大滝村)に入っており、ほどなく村の中心部となる。旧大滝村は2006年3月1日に伊達市へ編入された。壮瞥町を間に挟んでいるため、飛び地である。1人だけ、伊達市内から乗り通してきた客がいた。中心部を反対側の端へ通り抜けたところが、終点の大滝本町東団地だった。

原野が広がる道東や道北とは異なり、この辺りはかなり開けている。人口は伊達市が約3万2000人、壮瞥町が約2300人で多くはないが、それなりに生活の匂いがする。しかしよく見れば、カーテンや雨戸を閉じた家が目立つ。何よりそうした家は、日曜日なのに玄関先に自家用車が置かれていない。空き家と思われた。

かつての新大滝駅の駅前通り
胆振線新大滝駅へと通じていた駅前通り(筆者撮影)

旧大滝村は豪雪地帯であり、現在の人口は800人あまり。主産業はキノコ栽培と観光業とされる。かつてはここにも鉱山があり胆振線の新大滝駅から運ばれていたが、1971年に閉山され途絶えた。廃線時、新大滝の隣りの駅は御園だったが、伊達倶知安線は国道453号が御園を通っていないことから、そのまま国道を進み、喜茂別町の日の出を経由して走っていた。大滝―日の出間には清原という集落があり、バス停も設けられていたが、2020年の国勢調査の時点では人口0の「消滅集落」である。

主産業が途絶え、広域流動が見込めなくなった時点で、路線バスの廃止も宿命づけられていた。札幌に発着し、胆振線唯一の急行であった「いぶり」が廃止されたのは、1980年である。

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土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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