驚きのレタスが育つ植物工場は20もの条件を制御 プランテックスの栽培レシピはiPhoneアプリだ

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井上:ビジネスモデルの仮説検証をするために柔軟性を保つというのは理に叶います。今後パターン化できれば効率性も上がりますね。

そのうえでお聞きしますが、御社のビジネスにおいて今後キーとなる技術はどのようなものですか。

山田:レシピ(RECIPE)の考え方だと思っています。

われわれは、植物の成長を管理するために20個の環境条件を制御していますが、植物の各成長段階において20個の条件をどのように設定するのか、その組み合わせをレシピと呼んでいます。たとえば、成分500倍の状態で植物を育てるためのレシピ、などがあるわけです。

レシピは、ダウンロードして別の生産拠点で活用できます。

われわれの栽培装置は、装置が違っても環境条件を同じように制御できることを基本コンセプトとしています。小型の研究用装置でも、大型の商業生産用の装置でも、同じように制御できるわけです。

そうすると、研究所の小さな装置で研究し、新しくレシピが生まれたら、大型装置を備えた量産工場にダウンロードし、次の日から成分500倍の野菜を作ることができるわけです。

そして世界中に植物工場を展開していきます。レシピに課金することで、レシピを作った研究者に収益の一部を戻すこともできるようになります。優良なレシピが出ることで植物工場が普及します。植物工場が普及することでレシピの潜在的なユーザーが増えます。そうするとさらに新しいレシピを研究するインセンティブが生まれます。

新しいレシピがどんどん生まれていって、植物工場が増えていくという好循環ができると考えています。

井上:研究と量産が車の両輪となって動くわけですね。

植物工場はiPhone、レシピがアプリ

山田:iPhoneとアプリのような関係だと思っています 。最初はハードウェアを普及させることが1番大事なんですけど、ある程度ハードウェアが普及すると、アプリの価値が高まっていきます。

われわれは、研究と量産をつなげる役割を担うプレイヤーになれればと思っています。

プランテックスのビジネスモデル図

井上:そこまでいくと、世界に通用するイノベーションプラットフォームになります。海外の高級レストランで御社の野菜が食べられる未来も近いかもしれません。

プランテックス 設立:2014年6月 所在地:東京都中央区 資本金:5000万円 社員数:30人 投資ラウンド:シリーズC(2023年4月時点)

経営学者・井上達彦の眼

MITの起業家教育を担うビル・オーレット教授は、ある技術をもとに事業を構想するときには、6つぐらいのアイデアを可能性として持つべきだという。顧客は誰か、どのような価値を提供するのか、その場合の収益の上げ方はどうなるのか。6つのパターンごとに設計すればいいというわけだ。
パターンとして定まれば、次にどれが一番筋がいいのか、検証しながら探り当てていくことができる。思考実験に始まり、想定する顧客にインタビューし、ピッチを行う。そして、プロトタイプをつくって試してみるのだ。こうしてターゲット顧客と製品・サービスが徐々に明らかになっていく。
ビジネスモデルについても同じことが言える。さまざまな可能性を見据えながら、あえて一つに絞らないことが大切だ。
プランテックスの実践は、まさにこれに該当する。栄養価の高い食糧、サプリに使える機能成分、医薬の材料になる成分抽出など、技術の価値が多様な段階ではさまざまなパターンを考えるべきだ。このステージではビジネスモデルの柔軟性を保つことはとても大切に思える。
そして、もう一つ注目すべきなのが、プランテックスの社会的な役割である。それは、パートナーの大企業のイノベーションを促すというものだ。
植物工場における環境制御技術を武器に、さまざまな業界のイノベータと組み、業界イノベーションの「触媒」になっている。ガチガチに定められたビジネスモデルではできない芸当であろう。
いわば、柔道や合気道のような構えでビジネスモデルのデザインを決めていくというスタイルである。これによって、素晴らしい試合を披露して価値を創出できる。自らの思い込みに囚われることなく、さまざまな可能性を探索し、多種多様な組手ごとに技術の可能性を切り開くことができるのだ。
井上達彦教授がディープテック16社を訪ね、ビジネスモデルをとことん問う連載記事はこちらから
井上 達彦 早稲田大学商学学術院教授

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いのうえ たつひこ / Tatsuhiko Inoue

1968年兵庫県生まれ。92年横浜国立大学経営学部卒業、97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)取得。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教授などを経て、2008年より現職。経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェロー、早稲田大学産学官研究推進センター副センター長・インキュベーション推進室長などを歴任。「起業家養成講座Ⅱ」「ビジネスモデル・デザイン」などを担当。主な著書に『ゼロからつくるビジネスモデル』(東洋経済新報社)、『模倣の経営学』『ブラックスワンの経営学』(日経BP社)などがある。

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