実践の経営学を探究する井上達彦教授がディープテックを訪ね、ビジネスモデルをとことん問うてゆく。世界に羽ばたくイノベーションの卵に迫る。
井上:御社の事業について教えてください。
山田:簡単にいえば、いわゆる植物工場事業です。今、食料生産が危機的な状況にある中で、効率よくかつ安定的に植物を作ることが課題になっています。
われわれは、この新しい技術に日本のものづくりの技術を組み込むことで社会に貢献すことを目指しています。持続可能で、安心・安全で、食としての高品質なおいしい食料をつくります。
井上:ズバリ、植物工場の価値って何でしょうか。
味わいも、有用成分も増したレタス
山田:生産時に投入される各種資源の利用効率を高められることが一番の価値だと思っています。
食料の需要増とともに、食料生産に欠かせない水や肥料などの投入資源が逼迫しており、深刻な課題となっています。また、季節や天候の影響を受けずに生産が可能となることも、気候変動や異常気象に対して食料生産を強靭化するのに役立つだろうと期待されています。
それらに加えて、食の面では、野菜本来の味であるとか、高い品質、安定した供給などが大切です。しかしそれ以外にも、植物工場によって機能成分の含有量もさまざまにコントロールできることがわかってきた。そこで作られた野菜は、サプリメントみたいな性質を持った商品として売られるようになるかもしれません。
例えば、ポリフェノールやギャバ、ルテインなどを多く含んだレタスやほうれん草などですね。栽培環境条件をコントロールすることで、植物の本来のポテンシャルをもっと引き出して、もっと多くの有用成分を含んだ状態で栽培する。
実際、私たちが育てたレタスの成分を測ったら、βカロチンがニンジンの半分ぐらいありました。味わいも濃くて「野菜本来の風味がしっかりと出ていますね」と驚かれます。
近い将来には、医薬原料になるような成分も作れるようになると思います。植物工場だと、ある成分の含有量が数百倍の濃度で含まれた状態で栽培されるような研究結果も出てきています。希少な成分も安定的に市場に供給できるようになる。新しい医薬品の市場が生まれるかもしれません。
井上:それはすごいですね。どのような技術によってそれが可能になるのでしょうか。
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