センサー45兆個の2040年に花開くワイヤレス給電 エイターリンクはデータをつかさどる種をまく

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実践の経営学を探究する井上達彦教授がディープテックを訪ね、ビジネスモデルをとことん問うてゆく。世界に羽ばたくイノベーションの卵に迫る。

ミレーの「種をまく人」が名画たるゆえんは、その力強さにあるといわれる。右手にたくさんの種をもち、畑の斜面を大股で歩く農民をストレートに描いた作品は、それまでなかったそうだ。深く被った帽子からその表情は想像するしかないが、ハードワークの美しさを彷彿とさせる。

大胆な発想でワイヤレス給電の世界標準を狙うのは、スタンフォード大学発のベンチャーであるエイターリンク株式会社。世界でも類を見ない技術に目をつけ、同社を率いるのは岩佐凌さん(代表取締役CEO)。その技術を開発したのは、『ネイチャー』誌にも投稿実績のある田邉勇二さん(代表取締役CTO)である。

彼らも、ミレーの名画のようにビジネスの種をまこうとしている。

井上:お二人の出会いはどのようなものだったのでしょうか。

岩佐:2017年に田邊と出会いました。ワイヤレス給電は素晴らしい技術だったのですが、その時、彼はそれを何に使うかについて、決定的なアイデアを持っていませんでした。積極的に活動して商社の方など50人くらいに会っていたらしいんですが、誰ともうまくいかなかったようです。

井上:田邉さんは起業家としてだけでなく、サイエンティストとしても一流ですね。世界最高峰の科学雑誌『ネイチャー』に掲載されるなんてすごいです。どのような技術を開発していたのでしょうか。

田邉:もともとは、スタンフォード大学で10年間ぐらいバイオメディカルインプラントという体内に埋め込むデバイス、例えばペースメーカーの開発を行ってきました。

ただ、体内に埋め込むデバイスには、バッテリーだけではどうしてもエネルギーが賄い切れないという課題がありました。なので、体外から体内に向けてワイヤレス給電、つまり電波で電力を送り、デバイスが電波で受け取ったエネルギーを直流の信号に変換して神経刺激をすることを研究していたんですよ。

技術者と実業家が出会った

井上:そこで岩佐さんと出会ったわけですね。

岩佐私は、ハードとソフトを含めて新しいことをやってきました。要素技術をどうやって社会実装していくかが仕事のテーマだったんですよね。

たとえば、テフロンはフライパンでよく使われている素材ですが、最初はロケットの先端部分で使うために発明されたんです。すごい材料だけど、他に何か使えるところはないかな、といろいろ探した結果、フライパンにたどり着いたんですよ。

ディープテックの技術にはどうしてもプロダクトアウトの側面がある中で、どうやって社会実装させていくのかが大切なんです。

(左)岩佐凌(いわさ りょう)エイターリンクCEO(右)田邉勇二(たなべ ゆうじ)エイターリンクCTO
(左)岩佐凌(いわさ りょう)エイターリンク代表取締役CEO。千葉県流山市出身。2015年学習院大学を卒業後、岡谷鋼機株式会社(商社)へ入社。トヨタ自動車、アイシン精機、アイシンAWなど向けに自動運転や電気自動車向けのプロジェクトに従事。要素技術の製品化などの多数のプロジェクトに参画し、多くの関係者をまとめながら中心的役割を果たした。年間売り上げ約120億円を達成。2017年にアメリカ・シリコンバレーにて田邉氏と出会い、2019年12月に岡谷鋼機を退社、2020年8月にエイターリンク社を田邉氏と設立
(右)田邉勇二(たなべ ゆうじ)エイターリンク代表取締役CTO。カリフォルニア州サニーベール出身。2011年早稲田大学大学院にて博士後期課程修了後、アメリカ・スタンフォード大学工学部研究員に。2011から2020年まで、スタンフォード大学にて非接触給電およびデータ通信システムの研究開発に従事。2020年8月にエイターリンク社を岩佐氏と設立 (写真・エイターリンク提供) 

井上:技術者と実業家の出会いというのは、まさに理想的ですね。田邉さんは根っからの起業家だったんですか?

田邉:いや、自分は根っからの起業家ではないと思っています。

スタンフォードにいた時には、周りがみんな起業していたんですよ。自分がいた研究室のメンバーは半分が起業して、半分がプロフェッサーになって、残りの数人とかがGAFAとかに勤めてるっていう感じでした。

アカデミアに行くほど自分は賢くないので、じゃあ起業かなって感じ。なので、環境だと思いますね。環境が日本とは全然違い過ぎるというか。日本にずっといたら、たぶん大企業に行って何かやっていたと思います。

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