実践の経営学を探究する井上達彦教授がディープテックを訪ね、ビジネスモデルをとことん問うてゆく。世界に羽ばたくイノベーションの卵に迫る。
井上:いきなり失礼な話ですが、農薬ビジネスに社会性や将来性はあるのでしょうか?
西ヶ谷:世界の人口はまだ増え続けているわけですよ。いま70億、80億人って言われていますけれど、少なくとも100億人は超える。人口が増えれば食べるものも絶対必要なわけでして、その根源となる農作物を作るための資材、肥料、農機具、そして、農薬が不可欠になってくるんです。
それでも「農薬は必要ないのでは?」とか、「安全性のために農薬なくしたほうがいい」という声はあります。
これに関しては科学的なデータがあって、農薬を使わなければ稲や穀物類だと3割くらい収量がダウンします。葉物野菜、たとえばキャベツですと、もう半分以下になってしまう。リンゴなんかは98%ぐらいダウンして、ほとんど栽培できないと言われています。
無農薬100%で現在の人口は養えない
井上:それは一大事ですね。必ずしも一般には知られていないように思われます。
西ヶ谷:ええ。第二次世界大戦後、緑の革命などによって農作物収穫量は飛躍的に増えました。それで、飢餓は激減し、人類の人口は倍に増加したわけです。この成功は、大量の化学肥料と農薬を使うことで達成されたんです。
もし無農薬有機栽培だったら、現在の半分の人口を養えるかどうかもわかりません。経済学者の中には高齢者の「集団自決」が必要だと過激な比喩で話題になった方もいますが、もし無農薬100%にするのなら、本当に人類の数を減らさないといけないのがこの世界の現状です。
井上:なるほど。われわれも無農薬がいいですし、付加価値も高くなるとは思うのですが、そもそも、なぜ農薬に対する風当たりが強いのでしょうか。
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