農薬は必要、だから医薬をまねて安全性を高める アグロデザイン・スタジオはとことん模倣する

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実践の経営学を探究する井上達彦教授がディープテックを訪ね、ビジネスモデルをとことん問うてゆく。世界に羽ばたくイノベーションの卵に迫る。

アグロデザインスタジオの西ケ谷有輝社長と井上達彦教授
アグロデザインスタジオの西ヶ谷有輝社長(左)と筆者(写真・筆者提供)
「小麦は全滅、疫病で畑を焼いたわ。広いコーン畑だけが頼りでした。でも砂に覆われて……」「砂嵐はしょっちゅう起きた。いつも埃が舞っていたわ」
巨匠クリストファー・ノーラン監督の「インターステラー」が描く近未来の世界である。幻想的でありながら、不思議な現実感がただよう。世界人口が激増する中で、わたしたちは現在と同じ生活を維持できるのか。
今回は、農業に関わるテックベンチャーを訪問した。テックベンチャーと言っても、最近注目されているようなフードテックではない。話題になることが少ない農薬ベンチャーである。
その名は株式会社アグロデザイン・スタジオ。代表取締役社長の西ヶ谷有輝さんは、東京大学で生命科学を学び、最先端の技術で農薬の常識を覆そうとする。農薬というと人体への影響など危険性が話題になる。必要悪の域を超えて、食の安全保障を高めることができるのか。その戦略とビジネスモデルを伺う。

井上:いきなり失礼な話ですが、農薬ビジネスに社会性や将来性はあるのでしょうか?

西ヶ谷:世界の人口はまだ増え続けているわけですよ。いま70億、80億人って言われていますけれど、少なくとも100億人は超える。人口が増えれば食べるものも絶対必要なわけでして、その根源となる農作物を作るための資材、肥料、農機具、そして、農薬が不可欠になってくるんです。

それでも「農薬は必要ないのでは?」とか、「安全性のために農薬なくしたほうがいい」という声はあります。

これに関しては科学的なデータがあって、農薬を使わなければ稲や穀物類だと3割くらい収量がダウンします。葉物野菜、たとえばキャベツですと、もう半分以下になってしまう。リンゴなんかは98%ぐらいダウンして、ほとんど栽培できないと言われています。

無農薬100%で現在の人口は養えない

井上:それは一大事ですね。必ずしも一般には知られていないように思われます。

西ヶ谷:ええ。第二次世界大戦後、緑の革命などによって農作物収穫量は飛躍的に増えました。それで、飢餓は激減し、人類の人口は倍に増加したわけです。この成功は、大量の化学肥料と農薬を使うことで達成されたんです。

もし無農薬有機栽培だったら、現在の半分の人口を養えるかどうかもわかりません。経済学者の中には高齢者の「集団自決」が必要だと過激な比喩で話題になった方もいますが、もし無農薬100%にするのなら、本当に人類の数を減らさないといけないのがこの世界の現状です。

井上:なるほど。われわれも無農薬がいいですし、付加価値も高くなるとは思うのですが、そもそも、なぜ農薬に対する風当たりが強いのでしょうか。

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