西ヶ谷:私の専門は分子の測定です。分子の形がわかればその働きもわかるということで、博士課程で取り組みました。私は、理学部の生物学科卒業なので、ヒトでも、ネズミでも、ミジンコでも、生物という意味では同じだとみなします。だから、分子標的法を農薬に使うことは自然だったんです。
井上:裏を返せば、他の分野の方にとっては違うものだったわけですね。
西ヶ谷:バイオの分野は、理学部系の生物、薬学・医学、農学部とあって、それぞれ考え方が全然違うんですよ。
医学部とか薬学部の人って、ヒトを特殊な対象として扱うんです。人の命が価値になるわけです。一方、農薬は、完全に人の財産を守るための薬剤にすぎないんですね。農薬を投与した時に収益がどれくらい上がるかで農家さんは判断します。
井上:同じ化合物を扱っていても随分と違うものですね。ビジネスの仕組みも違いますか。
医薬と農薬、決定的な違いとは
西ヶ谷:医薬も農薬も、どの化合物をどれくらい接種すると効くかという情報を売っています。研究開発費が莫大で、これを回収するために、特許化して他の関連データも含めて製薬会社や農薬会社に売っている。この点では同じです。
しかし、医薬には成果報酬がある。筋のいい化合物ができたとき、その独占販売権を特定の会社に付与して対価をもらう。さらに、フェーズごとに関門をつくり、あらかじめマイルストーンを決めて試験結果がよかったら追加でお金をもらうことになっている。
そして最終的に製品が販売されたら、その売り上げの何%かをロイヤルティーとしてもらえる。医薬品ですと、ロイヤルティーは大体5%から多い場合は20%ぐらいです。
世界で初めてこのモデルを実施したのがジェネンテック社です。この会社は1970年代にできたバイオベンチャーで、今はロシュの子会社です。ここがイーライリリー社と初めて提携した時のロイヤルティーが7%でした。それからバイオベンチャーの立場がどんどん強くなり、20%、30%のロイヤルティーを取るようになりました。
井上:農薬でもこれが実現すれば、ビジネスモデル・イノベーションとなりますね。何かボトルネックはあるのでしょうか。
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