LCRは中国と東南アジアの国であるラオスを結ぶ鉄道として注目を集めているが、中国―東南アジアの国際間旅客輸送はそれ以前から存在した。中国―ベトナム間の列車だ。
最も歴史が古いのは、昆明―ハノイ間に1910年に開通した「滇越鉄道」だ。戦乱や中華人民共和国建国などの影響も受けたが、1996年以降しばらくの間、中越間の国際旅客列車が走っていた。しかし、渓谷沿いの岩場に線路を敷き、トンネルはほぼ全てが岩を穿っただけの「素掘り」であることなどから安全性に問題ありと判断され、建設開始からおよそ100年経った2003年には中国国内列車を含む旅客扱いが廃止されてしまった。
中越間には別のルートもあり、広西壮族自治区の南寧とハノイを結ぶ国際旅客列車がある。ベトナムは軌間1mの「メーターゲージ」を用いてきたが、中国からの列車が直接乗り入れできるようハノイのザーラム駅まで標準軌の線路を追加し、3線軌道にした。これにより、2009年1月から中国側車両による列車が乗り入れるようになった。ただ、2023年4月現在はコロナ禍の影響で運休中だ。
香港「直通車」は高速鉄道に置き換えか
コロナ禍を経て姿を変えつつある国際鉄道もある。厳密には「国際」ではないが、パスポートがないと乗れない中国本土と香港を結ぶルートに変化が起きようとしている。
香港の九龍半島にある紅磡(Hung Hom)駅と広東省、さらに北京、上海とを結ぶ「城際直通車」(Intercity Through Train)が長年にわたって運行されてきたが、コロナによる”国境”封鎖で2020年春以来、運休が続いている。中国がゼロコロナ政策から転換したことで外国との行き来が再開される中、本土から香港領内に入る高速鉄道の運行は復活したものの、城際直通車の再開に関する予定は2023年4月時点で何も決まっていない。
城際直通車には、日本の近畿車輛が納入した2階建て客車「ktt」もあるが、耐用年数が過ぎているという話もあり、現地では「このまま復活しないで消えていくのでは」という寂しい噂も聞こえている。
東南アジアの国際列車
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ラオスでタイへの出発を待つタイ国鉄の列車
=2023年1月、タナレーン駅(写真:ひで@のんかい)
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ラオスでタイへの出発を待つタイ国鉄の列車
=2023年1月、タナレーン駅(写真:ひで@のんかい)
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国境の橋、タイ=ラオス友好橋を渡る国際列車
(写真:ひで@のんかい)
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「国際列車」の車内。所要時間15分で冷房もない
(写真:ひで@のんかい)
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タイ=ラオス友好橋の中間地点。両国の国旗が見える
=2023年1月(写真:ひで@のんかい)
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ラオス側の終点、タナレーン駅。路線はタイ国鉄保有だ
(写真:ひで@のんかい)
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ラオスのタナレーン駅構内
(写真:ひで@のんかい)
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中国からの貨物を扱うタナレーン・ドライ・ポート
=2023年1月(写真:ひで@のんかい)
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ラオス・タナレーン行きのチケット。「ボーダーパス」の
表記がいかにも国際列車だ(写真:ひで@のんかい)
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マレーシア国境のパダン・ベサール駅(タイ側)
=2022年9月(筆者撮影)
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両国の出入国検査はマレーシア側パダン・ベサール駅で行う
=2022年9月、パダン・ベサール駅(筆者撮影)
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両国の出入国検査はマレーシア側パダン・ベサール駅で行う
=2022年9月、パダン・ベサール駅(筆者撮影)
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マレーシア側のパダン・ベサール駅には両国の
きっぷ売り場が仲良く並ぶ=2022年9月(筆者撮影)
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近代的な造りのマレーシア側パダン・べサール駅。
柵の向こうが国際列車発着場所=2022年9月(筆者撮影
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マレーシアの優等列車ETSと通勤電車KTMコミューター
=2022年9月、バターワース駅(筆者撮影)
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両国ともに「パダン・ベサール駅」があるのでややこしい。
両駅間の所要時間はわずか2分だ(筆者撮影)
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クアラルンプール発ハートヤイ(タイ)行き臨時夜行列車を
待つ人々=2022年9月、KLセントラル駅(筆者撮影)
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ハートヤイ行き臨時夜行は寝台車付き客車列車で運行された
=2023年9月、KLセントラル駅(筆者撮影)
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臨時列車はディーゼル機関車の牽引で一路タイ国境へ
=2023年9月、KLセントラル駅(筆者撮影)
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マレーシアへの発車を待つパダン・ベサール行き国際列車=
2022年9月、パダン・ベサール(タイ)駅(筆者撮影)
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シンガポールからマレーシアのジョホール・バルに
向かう国際列車=2022年9月(筆者撮影)
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ジョホールバルのJBセントラル駅に入線する国際列車
=2022年9月(筆者撮影)
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シンガポール、ウッドランズ駅への案内標識。この先
駅一帯は撮影禁止だ=2022年9月(筆者撮影)
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昆明北―ハノイ間国際列車の行先表示板
=1998年3月(筆者撮影)
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ベトナムから中国に乗り入れていた寝台車両
=1999年6月、昆河線にて(筆者撮影)
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中越国境の橋を渡るベトナム国鉄のディーゼル機関車
=1998年3月、河口にて(筆者撮影)
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香港・紅磡駅の中国直通「城際直通車」列車乗り場
=2023年3月(筆者撮影)
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「城際直通車」のチケットカウンターは
閉鎖されたままだ=2023年3月(筆者撮影)
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LCRは開通からこれまでに1400万人が利用し、輸送された貨物量も300万トンを超えたという。ラオスはかつて旅行するのに極めて不便な場所だったが、世界遺産にも登録されている寺院があるルアンパバーンは数百年前の風情を色濃く残し、昔ながらの雰囲気を味わいたい旅人が集まってくる街だった。国際鉄道の開通で懸念されるのは「オーバーツーリズム」だろう。
乗車券の購入もオンライン化され、ますます便利に利用できそうだが、この先どんなことが起こるのか。東南アジア全体との鉄道連結も含めた動きに注目する必要がありそうだ。
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Motomi Sakai
旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com
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