データが示す「転職が日本人の給料を上げる」根拠 「転職できるのはハイスキル層だけ」は事実無根
さて、日本では「海外で労働市場の流動性が高いのは、経営者が人を解雇できるから」という説がまことしやかに語られているようですが、これも事実を正確にとらえてはいません。
改めてデータを確認すると、2001年以降、アメリカでは平均して毎年2321万人もの人が解雇されてきました。2321万人というのは、アメリカ全体の雇用者の16.7%に相当するので、驚くべき数字ではあります。
しかし、さきほど説明したとおり、自主的に転職した人は平均3332万人にのぼります。会社の都合でバンバン従業員の首が切られてしまうという印象の強いアメリカでさえ、離職者の6割は自主退職者なのです。
2022年に限ってみると、この傾向はさらに強まります。アメリカでは2022年のたった1年で、転職と解雇を合わせて43.6%の雇用者が離職したのですが、その75%を自主退職者が占めていたのです。
この事実は、アメリカの労働者が「仕事は仕事」と割り切り、納得のいく見返りが期待できない以上、我慢して働き続けてはくれないことを物語っています。
経営者からみると、給料を正当な水準まで上げていかないと、社員が辞めてしまうのです。アメリカの企業経営者は、労働者という「戦力」を失ってしまうリスクと常に隣り合わせにいるので、労働者の働きに対して、正当に給料を上げて応えなくては務まらないのです。日本のように、30年も賃金を上げずに内部留保金を貯め込むなんて、もっての外です。
解雇規制緩和は海外の生産性の高さの主因ではない
日本の経営者団体や一部の学者などからは、海外のデータを基に「生産性を高めるためには労働市場の流動性を高めなければならない。そのためには解雇規制を緩和すべきだ」と訴える声を聞くこともあります。マスコミでも同様の意見を聞く機会が少なくありません。
これらの主張は「日本では解雇規制が厳しいため、労働市場の流動性が低い。だから生産性の上昇が鈍い」という考えがバックボーンになっているようです。
しかし、先のアメリカの例のように、雇用者が自らの意思で離職するため流動性が高くなっている国も存在します。つまり、解雇規制の厳しさと、労働市場の流動性の低さは、必ずしも連動しないのです。
このように詳しい検証もせず、「厳しい解雇規制」がゆえに「労働市場の流動性が低くなる」と、2つの事実を並べて、あたかも因果関係があるような主張は、とりわけ日本でよく見られる論理の飛躍そのものです。
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