20代後半にぶつかる「ロールモデル不在」の高い壁 理想の人はいるが「手に届きそうな人」はいない

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ひと昔前、仕事と子どもは二者択一の難題で、子を持つ母親が会社経営や大企業の役員になれるなんて夢物語だった。ここ最近では仕事も育児も全力で!というスーパーワーキングママの特集を目にすることが多くなったが、一般社会ではレアな存在だから「特集」が成り立つという前提を忘れてはいけない。

うまくやりくりして働いている人はたくさんいる。

会社では責任の重い仕事を引き受け、部下をマネジメントし、家に帰ると幼児~小学校に入りたての子どもの世話をしている。だがその大半の女性はいつも疲れていて、しんどそう。

口を開けば、育児参加が不十分な夫への愚痴や「体力ある若いうちに産んどきな」というアドバイス、社会への行き場のない呪詛(じゅそ)が出てくる。

はるか先の階段を上る先輩を見て考えたこと

もちろん2人の子どもを産んでもむき卵みたいな肌でいつもハッピー!みたいな女性も見たことはあるが、開業医の夫と二馬力で働き、週の半分はシッターさんを雇えるような経済的余裕に満ち満ちた家庭や、体力おばけと陰で称賛されるくらいバイタリティあふれる体育会系ワーキングママなど、「例外」な人たちばかりでまったく参考にならない。

あいにく、私にはそんな猛者になれる胆力はない。

つまり、理想となる人たちはいるが、自分でも大丈夫かも!と思える〝手の届きそうな人〟たちが見つからないのだ。

もっと平均的と言うか、「普通」とされる経済力と体力で、仕事も育児も夫婦仲も、趣味活動まで充実してま~す!みたいな女性が増えないものか。

勇者の剣も魔法の杖も持っていない標準装備の自分でも、楽しくプレイできると確信できる将来の景色が見えてこないものか。

正直言って、はるか先の階段を上る先輩たちの背中は、「ああはなれない」「ああはなりたくない」で五分五分くらいだった。

文句ばかりは一丁前の私だが、会社の同期の男性と、仕事終わりに日本酒といぶりがっこをつまんでいるとき、思いがけないひとことをもらった。

キャリアを積み上げ、比較的早く昇進した女の先輩の話になったときだ。

「○○さん部長になったね」

「ね。くるみは今後どうなりたいとかあるの?」

「ない。昔は色々夢あった気もするけど今は何も見えない」

会社や社会を腐していた情けない私を、その同期は責めることなく、一拍置いたあとに答えた。

「今の日本って、独身でも専業主婦でも働く母親でも、女性が普通に生きてるだけで全部〝意思表明〟になるよね。こっから10年20年かけて制度や世論が変わっていく中で、必ず誰かの参考になる」

それは日本酒でゆるんでいた私の脳みそに、じかに氷水をかけるひとことだった。自分の傲慢さに気づくには、十分な衝撃だった。

ああ、ロールモデルとなる女性がいないとて、私は何を嘆いていたのか。

たとえ他人の選択をまねて同じキャリアを歩もうとしても、思わぬ災難や不運は必ず起こる。外部環境の変化や社会の不条理によって、出ばなをくじかれたり努力が水の泡になったりもする。他の人と同じ角度の坂を上っている、と安心していても、私の道には私の道なりの蛇行があり、たまに坂の上から理不尽な小石や岩だって降ってくるのだ。

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