「すき家」親会社は3万円超!外食も大幅賃上げの衝撃 賃上げに消極的な会社を見切る社員やパートも

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外食業界では依然としてコロナ影響が残り、食材や輸送費、光熱費高騰の影響も大きく受ける。多くの企業がコロナ前の利益水準を回復するには至っておらず、財務状況だけを見れば安易に賃上げができる環境ではない。

しかし、競合他社が賃上げの実績をアピールして採用を進める中、待遇改善に硬直的な態度を貫けば、社員やパートに見切りをつけられかねない。

海鮮居酒屋「磯丸水産」の運営企業の親会社で外食中堅のクリエイト・レストランツ・ホールディングス(クリレスHD)。コロナ前から傘下の飲食店で店長として働いていたAさんは2023年に入り、クリレスHDの子会社からの退職を決断した。

「コロナ禍に入ってから基本給が数%カットされ、その状態が続いていた。退職の直接的原因ではないが、親会社の(賃金に対する)方針にはずっと不満を持っていた」と打ち明ける。Aさんはオペレーションや人材教育に関する知見を買われ、知人が経営する外食企業の取締役に就任する予定だという。

クリレスHDは「コロナ禍のコストカットの一環で、一律で数%下げたことは事実。しかしその後、評価や個店の収益によって賃金を戻している社員も多い。また2023年6~7月頃の支給分から評価給を増額するなど賃上げも予定している」と話す。

賃上げ遅れると人材流出リスクも

賃上げに対して競合よりも積極的な姿勢を示しきれず、人材流出が進めば、店舗営業を継続するため追加の採用費や教育費も発生し、業績回復はますます遅れかねない。

鳥貴族ホールディングスの大倉忠司社長
鳥貴族ホールディングスの大倉忠司社長は、「従業員の待遇改善に取り組むことは、商品・サービスの質向上につながる」とも語る(撮影:ヒラオカスタジオ)

鳥貴族ホールディングスの大倉忠司社長は今年2月の東洋経済のインタビューに「経営側がベアを行う姿勢を見せなければ採用は難航し、企業として成長できない。その原資は(メニューの)値上げであり、今後は価格改定とベアがセットで行われるべきだ」と語っている。

同社が運営する居酒屋「鳥貴族」は、「人手不足の解消や従業員が働きやすい環境づくり」を推進するため、2022年4月に値上げを実施している。

今後、外食企業で定期的な賃上げが根付けば、その都度値上げもやむをえない。ただ、物価高騰下で消費者が外食を選別する目はより厳しくなっている。外食企業は、業態やメニュー展開で値上げが受け入れられるような付加価値をどう創出するか、知恵が試されている。

冨永 望 東洋経済 記者

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とみなが のぞむ / Nozomu Tominaga

小売業界を担当。大学時代はゼミに入らず、地元密着型の居酒屋と食堂のアルバイトに精を出す。好きな物はパクチーと芋焼酎。

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