ロシアとウクライナ｢民族の起源｣巡る主張の対立 ウクライナと呼ぶようになったのはなぜなのか

そこにチンギス・ハンの孫バトゥが率いるモンゴル人が襲来します。1237年、モンゴル軍はロシアに入り、1240年、キエフを占領します。街は徹底的に破壊されて、キエフ公国は滅亡しました。ウクライナ人はロシア人とともに、「タタールの軛（くびき）」の時代に入ります。

この時期、ウクライナから南ロシアの各地に、コサックという騎馬武装集団が現われます。コサックはもともとトルコ人の馬賊たちでした。

「コサック」はトルコ語で、「自由な人」を意味します。トルコ人馬賊に、モンゴル人も加わります。このモンゴル人は何らかの理由で、モンゴル正規軍から離れた者、正規軍に不満を持っていた者、あるいは正規軍に最初から属さず、馬賊として活動していた者などです。

当初、コサックはトルコ人やモンゴル人のアジア系の混成集団でしたが、ウクライナ人などのスラヴ人もコサックに加わるようになります。ウクライナ人の一部はモンゴル人支配を嫌い、自らコサックの一団に参入することにより、モンゴル人に抵抗したのです。

こうして、黒海に注ぐドニエプル川やドニエストル川流域で、無数のコサック集団ができあがります。

『トルコのスルタンへ手紙を書くザポロージェのコサック』（イリヤ・レーピン画、1891年、国立ロシア美術館蔵）

コサックはトルコ人集団をベースにしながら、モンゴル人やウクライナ人、ロシア人を取り込んでいき、多層な混血民族集団へと変化していきます。

ウクライナ人の愛国主義者たちはモンゴル人やロシア人に決して屈することのなかった誇り高いコサックこそが、自分たちの民族の原点であると主張します。ウクライナの国歌の歌詞には、「われらは自由のために魂と身体を捧げ、兄弟たちよ、われらがコサックの氏族であることを示そう」とあります。

ロシア帝国のウクライナ支配

しかし、実際には、ウクライナ・コサックは一部を除いてほとんどが、17世紀末にロシア帝国に屈しています。

ロマノフ朝のピョートル1世はウクライナ・コサックと大規模な戦争をし、大砲の火力でコサックの騎馬兵を打ち破ります。ピョートル1世はウクライナをロシア帝国に編入するとともに、コサック兵をロシア帝国の軍隊に編入します。こうして、ロシアのウクライナ支配がはじまります。