過激な「集団自決」発言の底に世代間対立の感情 高齢化社会のニーズは生産性向上に逆行する

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たとえば、金融緩和によって景気を過熱させて労働移動を促す狙いがある「高圧経済」といったマクロ政策の考え方である。このような政策が正当化されるのは、生産性の高い業種が社会的にも求められる「若い国」に限定される。経済の拡大と社会的ニーズのベクトルが合わない場合、これらの政策を進めることは「世代間対立」を強めるリスクがあるだろう。

「異次元緩和」は「高圧経済」の一種であるとすれば、過去10年に積極的な労働移動が行われたのかを確認する必要がある。そこで、労働移動の活発度合いを示すリリエン指標を確認する。

リリエン指標とは各産業の雇用成長率の散らばりを示すもので、雇用変動と全産業の雇用変動の乖離を集計して算出する。その値が大きいほど産業間の労働移動が活発であることを示唆する。

2003年以降のリリエン指標を確認すると、積極的な金融・財政政策が実行されたアベノミクス期において、リリエン指標はむしろ低迷していた。金融政策によって社会的ニーズに逆らうような労働移動を促すこと自体が容易ではないといえよう。

資産価格高騰で高齢者に恩恵

以上の議論で示したように、「世代間対立」が強まる状況では、それぞれの世代が目指す先が異なるため、マクロ経済政策の効果が減退することが予想される。

それだけでなく、金融緩和の副作用が「世代間対立」を強めるリスクもある。労働移動の例以外にも、金融緩和による資産価格の高騰という問題がある。

一般に若い世代ほど金融資産や実物資産の保有は少ないため、金融緩和によって資産価格が上昇する場合、高齢者の方が恩恵が大きいだろう。日本は労働所得の格差は大きくないため、資産の格差が大きくなると、「逆転」が難しくなる。

つまり、高齢者の「逃げ切り」の難易度を下げることになり、現役世代の不満は高まるだろう。

以上のような観点から、「世代間対立」が強まる状況で、かつ財政政策による所得移転が機能していない状況では、金融緩和への依存度は下げた方がよいだろうと考察できる。

末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

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すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

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