急成長ミネベアミツミ、14年ぶり社長交代の真意 「売上高2倍」に向け、買収路線は変わるのか

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規模拡大の大きな原動力となってきたのが買収だ。2017年にスマートフォンのカメラ用部品などを手がけるミツミ電機を、2019年にはマツダを大口顧客とする自動車部品メーカーのユーシンを子会社化した。最近も2022年9月にコネクターメーカーの本多通信工業、同年11月に住友金属鉱山の子会社だったコネクターメーカーの住鉱テック、今年1月に自動車の鍵などを手がけホンダの子会社だったホンダロックの買収が完了した。

買収後の統合作業では、ミネベアミツミの強みを被買収企業に投入してきた。

例えばミツミ電機の場合、工場にミネベアの役員を送り、得意の精密加工技術などを活かす改革に取り組んできた。ミツミ電機は、買収が行われた2017年3月期の売上高が1780億円、在庫評価減もあり営業損益は106億円の赤字に落ち込んでいた。だが2023年3月期、ミツミ事業セグメントは売上高5430億円、営業利益500億円を見込むまでに成長した。

なぜそのようなことが可能なのか。ミネベアは小型のボールベアリングを祖業とし、精密加工技術に強みを持つ。また、1972年にシンガポール、1980年にタイ進出など海外生産も早かった。ほかのサプライヤーがまだ進出する前の時代、他社を頼ることができず、垂直統合で大量生産する技術を身に付けた。こうしたノウハウを買収した企業に教え込み、成長へと導いてきたのだ。

最近買収した本多通信工業などでも、ミネベアミツミの海外工場を活用する方針だ。

ミネベアミツミは2029年の売上高2.5兆円、営業利益2500億円を目指しており、今後も買収が成長の大きな原動力になるだろう。

ミネベア式買収の極意

貝沼会長兼社長は日米で弁護士資格を持つ異色の経営者だ。1988年にミネベア(現ミネベアミツミ)に入社し、法務担当を経て2009年に社長に就任した(撮影:今井康一)

貝沼CEOが掲げるのが「8本槍」戦略だ。重視するのは、ニッチな領域で高いシェアを持つことや、将来的になくならないと見込まれる製品であることなどの条件で、ベアリングやモーター、アナログ半導体などの8つの事業を、中核事業に据えている。

ただ、この「8本槍」は8本と決まっているわけではない。実は、以前は「7本槍」と言っていたのだ。ユーシンの買収完了後の2019年5月に行われた決算説明会で「7本槍」から「8本槍」に増加した。貝沼CEOは2023年2月の東洋経済のインタビューで、今後の買収について「8本槍の補完も、9本目、10本目も行う」と話した。

規模が大きくなり、貝沼氏がCEOとCOOの両方を務めるのには限界が生まれつつある中で行われる社長交代。貝沼氏と吉田氏の役割分担が滞りなく進むかどうかが、ミネベアミツミが目指す規模成長のカギとなる。

遠山 綾乃 東洋経済 記者

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とおやま あやの / Ayano Toyama

東京外国語大学フランス語専攻卒。在学中に仏ボルドー政治学院へ留学。精密機器、電子部品、医療機器、コンビニ、外食業界を経て、ベアリングなど機械業界を担当。趣味はミュージカル観劇。

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