日本の製造業は、なぜ設備投資に慎重なのか アベノミクスの期待に応えず

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安倍晋三首相が推し進める日本再生策が機能するためには、国内経済が停滞とデフレの数十年から抜け出し、企業が進んで新規投資を続ける必要がある。しかし、多くのエコノミストは、安倍首相の就任から2年以上が経った今も、企業側は政権の要請を拒否し続けていると指摘する。

「政府や日銀は金融緩和をすれば設備投資はかなり押し上げられるという見込みを持っていたのだろうが、(その読みは)狂ったと思う」とニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査室長は話す。金利に加え、設備投資を決めるもう一つの要素である期待成長率が抑制の要因として強く効いているからだ。

「実質金利自体は金融緩和で下げられたが、それによる押し上げ効果は当初考えられたほどでなく、期待成長率が上がっていないということの方が大きい」と斎藤氏はみる。

日本製造業の生産戦略に大きな影響を与えるトヨタ自動車<7203.T>。ダイキンにも生産指導を行っている同社は今年3月下旬、5年をかけて自動車の生産工程を抜本的に見直し、その成果や新しい生産技術を報道陣に披露した。

リーマンショック後に赤字転落した反省から、トヨタは13年度から3年にわたり工場新設を凍結し、既存工場の生産能力を最大限使い切るなど生産性向上を進めてきた。その結果、すでに工場稼働率は世界全体で90%超に達している。同社はさらに生産設備の小型化などを推進しており、その結果、今年は新車生産時の設備投資が08年当時に比べて約半分になるほか、18年以降に中国とメキシコで建設を予定している新工場の初期投資も08年度比で4割減らせるめどがつきつつある。

トヨタでは小規模で効率的な塗装工程、フレキシブルなロボット溶接システムなどが国内工場に導入されつつある。コストをかけずに生産力の質と規模を高めるという取り組みは世界の自動車業界の大きな潮流にもなっており、トヨタがめざす方向も、巨大投資による生産能力の拡大という過去の経営戦略からは一段と遠ざかっている。

日本企業が設備投資の拡大に慎重な姿勢を取り続ける中で、安倍政権がその流れを崩すことはかなり難しい、と伊藤忠経済研究所の武田淳主任研究員は話す。安倍政権では規制緩和や産業振興策を進めているが、そのペースは遅い。ほとんどの日本企業は国外に成長を見い出しており、基本的に需要地に近いところでの現地生産を進めている。

企業がいったん行った投資を回収するまでには5年、10年が必要だ。武田氏は「今後5年、10年先でも円高には戻らないという確信が持てないと、なかなか(設備投資は)やりづらい」と指摘する。「日本企業はリーマンショック後の円高で相当にダメージを受けてきた。それを考えると、思い切った投資に踏み切るのは簡単ではないだろう」。

 

(Kevin Krolicki、梶本哲史 取材協力:白木真紀 編集:北松克朗)

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