賃上げラッシュ「ニッポンの給料」に起こる大異変 26年ぶり高水準、春闘に異例の熱視線が集まる

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金融市場も今年の春闘には高い関心を寄せている。物価と賃金がダブルで上昇する好循環が実現するかどうかは、「2%物価目標」の達成を掲げる日本銀行の出口戦略を占ううえでも、大きな注目ポイントとなるからだ。

国債の金利や株価、為替の動向は、10年に及んだ日銀の異次元金融緩和策が、いつ、いかなる形で出口に向かうかにかかっている。それゆえ、市場関係者は日銀の政策を必死に見定めている。

では、2%目標に見合う賃金上昇はどの程度なのか。その際に必要な賃金上昇率を日銀は3%程度とみている。黒田東彦総裁は昨年5月の講演で、「生産性と物価の上昇率と整合的で、持続可能な名目賃金の上昇率は3%程度ということになる」と述べている。

2%弱の定昇を含めれば、日銀が目指すマクロの賃金上昇3%の達成には毎年5%近くの賃上げが必要になる。ただ下図のとおり、ここ数年の春闘賃上げ率は2%前後。2.75%と予測されている今年の水準から見ても、実現のハードルはかなり高いことがわかる。

「ノルム」の変化がカギ

みずほリサーチ&テクノロジーズの門間一夫・エグゼクティブエコノミストは、「日銀のいう『物価と賃金の好循環』は生産性とは関係なく、物価に関する『ノルム(常識ないし規範)』の変化を指す。分岐点となる24年春闘の結果から、人々の中長期の期待インフレ率、つまりノルムの変化が確認できるかどうかが日銀の出口戦略においてカギを握る」と語る。

折しも日銀の総裁は、今年4月から学者出身の植田和男氏が起用される見通し。「植田新総裁はノルムの変化が起きているかをじっくり見極め、出口戦略の時期を探る」(門間氏)とみられている。

舵取りは容易ではない。金融緩和の縮小によって企業が採用意欲を失い、労働需要が冷え込んでしまえば元も子もない。たとえ人手不足であっても賃金の上昇は期待できなくなる。23〜24年の春闘は賃金の上昇を好機に変え、生産性向上や消費の拡大につなげていけるのか。「ニッポンの給料」は大きな転換期を迎えている。

二階堂 遼馬 東洋経済 記者

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にかいどう りょうま / Ryoma Nikaido

解説部記者。米国を中心にマクロの政治・経済をカバー。2008年東洋経済新報社入社。化学、外食、ネット業界担当記者と週刊東洋経済編集部を経て現職。週刊東洋経済編集部では産業特集を中心に担当。

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