ついに試走開始、フランス「新型TGV」成功する条件 実験線で耐久走行、2024年冬の営業運転目指す

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アルストムは次世代型高速列車として分散動力方式のAGV(Automotrice à grande vitesse)を開発、さっそくイタリアの民間運行会社NTVによって採用され、同社の高速列車「イタロ」として2012年にデビューを飾った。その様子はニュースでも報じられて大きな話題となったが、メーカーのお膝元であるフランスで採用されることはなく、結局AGVはイタロ用の11両編成25本だけで終了となってしまった。

アルストムAGV NTV "Italo"
ほとんど受注を獲得できなかった動力分散方式の「AGV」(撮影:橋爪智之)

AGVは最高時速360km、開発当時は世界で最も環境性能に優れた車両と評されていたが、動力分散方式としたことで編成全体の床下にも機器を配置する必要が生じた。フランスの鉄道はホームの高さが低く、床下に機器が配置されたAGVはホームと車両の床面高さを合わせる低床化が困難で、同国が推進するバリアフリー化には対応できないという点がまずネックとなった。

キャパシティでも不利だった「AGV」

加えて、パリ―リヨン間をはじめとするフランス国内の各路線は慢性的なキャパシティ不足が深刻な問題となっており、座席数を増やすことが喫緊の課題となっている。2階建てのTGVデュプレックス1編成と同じ座席数をAGVで確保するためには、最低でも編成の長さを14両編成、252mに伸ばさなければならないが、フランス国内で運行される列車の多くはTGVデュプレックスを2編成連結して走っており、この時点でAGV導入の望みは完全に絶たれた。

TGVデュプレックス TGV duplex
座席数の増加に寄与した2階建てのTGVデュプレックス(撮影:橋爪智之)

国際列車についても、TSI(相互運用の技術仕様)の規定で編成長が最大400mと定められており、1編成の長さが252mでは2編成を連結できず、1編成では逆に容量が不足してしまうため、やはり使いづらい。ロンドンからパリやブリュッセルなど、比較的限られた区間だけを走り、キャパシティにも問題がない「ユーロスター」の新型としての採用が最も可能性があったが、あっけなくシーメンス製の「ヴェラロ」に敗れてしまった。

その後、アルストムはAGVの2階建て仕様についても開発を進めていたが結局断念し、最大限に座席数を増やした動力集中方式のアヴェリア・ホライズンに落ち着いた。

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