中国の「スパイ気球」に米国がここまで怒るワケ 過去の偵察問題とは根本的に異なる露骨さ

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今回の気球事件は、民主党と共和党のどちらが中国に対してより強硬な姿勢を示せるかを競い合っているときに起きた。下院情報委員会の委員長に新しく就任したマイケル・R・ターナー議員(オハイオ州選出)は、多くの共和党議員の意見を代弁して、気球はもっと早く撃ち落とされるべきだったと主張している。

ターナー氏は今回の撃墜について、「試合が終了してからクォーターバックにタックルするようなものだ」と語った。「撃墜される前に気球の任務は終わっていた。アメリカへの侵入も、任務の遂行も、許すべきではなかった」。

これほど露骨な事件がなぜ起こったのか?

その「任務」が何だったのか、そしてターナー氏が示唆したように、その任務の遂行を許すリスクのほうが気球を撃墜するリスクよりも本当に大きかったのかどうかは、まだ明らかになっていない。超大国間のスパイ合戦は激しさを増しており、今回の事件は氷山の一角だ。

半導体製造装置、人工知能(AI)ツール、5G通信、量子コンピューティング、生物科学などが軍拡競争の源泉となる中、それらを支配する競争は激化する一方で、米中の双方が相手を監視し合っている。

しかし、今回のスパイ気球は露骨に目につくものであったため、アメリカの政策担当者の多くは、中国の情報機関と文民指導部が互いに連絡を取り合えているのかどうか疑問視するようになっている。

オバマ政権とトランプ政権で国家安全保障局の局長を務めたマイケル・ロジャース退役海軍大将は、「中国が入手したかもしれない情報の価値はともかく、今回が違うのは、その視認性だ」と指摘する。「国土への物理的な侵入となると、受ける印象がまったく違ってくる」。しかも、気球が検知された後の中国の「対応はひどいものだった」。

今回の件は致命傷になるほどの危機ではまったくない。にもかかわらず、気球が検知されたことを知った中国当局が問題に対処する姿勢を見せなかったことで、事の深刻さが浮き彫りとなった。

この種の問題は、2001年にアメリカのEP-3偵察機と中国の戦闘機が衝突し、両機が墜落した後に解決されてしかるべきものだった。当時のジョージ・W・ブッシュ大統領は事件後、何日も中国の指導者に電話をかけることができなかった。

当時の国務長官、コリン・パウエル将軍の努力も実らなかった。「さらに深い危機に陥ったら何が起こるかわからないと感じさせる出来事だった」と、パウエル氏は後に語っている。

(執筆:David E. Sanger記者)

(C)2023 The New York Times 

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