中国の「スパイ気球」に米国がここまで怒るワケ 過去の偵察問題とは根本的に異なる露骨さ
中国の監視気球が大胆にもアメリカを横断飛行した事案の重要性は、アメリカの国家安全保障システムに対するほかのスパイ行為と比べて、どれくらい深刻だったのか。アメリカの情報機関が、その位置づけを行うのには何カ月とかかるかもしれない。
何しろ、似たような事例はほかにもたくさんあるからだ。
15年前にはF-35の設計図が盗まれ、中国空軍が「中国の特色ある」F-35そっくりなステルス戦闘機を開発したことがあった。2015年には中国最高峰のハッキングチームが、セキュリティ対策の弱いアメリカ人事管理局のコンピューターから2200万人の個人情報を持ち出す事件があった。これにより中国は、アメリカの国家安全保障インフラの詳細な見取り図を描くことができたと推測されている。
海南島「空中衝突」事故の教訓は生かされず
しかし今回のスパイ気球問題は、これらの事案とは露骨さのレベルが違った。気球はモンタナ州の核ミサイル格納庫の上空にとどまったことで人々から注目され、続いてミズーリ州のカンザスシティ付近でも目撃され、その後、サウスカロナイナ州沖の浅瀬上空で「サイドワインダー」ミサイルによって撃墜されるという映画のような最期を遂げた。
軍や諜報機関関係者にしてみれば、その残骸は垂涎もののお宝で、それを何としてもリバースエンジニアリングしようと沿岸警備隊と海軍が破片の回収を続けている。
とはいえ、このような光景以上にスパイ気球事件が物語っているのは、アメリカの偵察機と中国の戦闘機が南シナ海の海南島付近の上空で衝突し、両国が危機管理の改善を誓い合ってからおよそ22年が経過した今、両政府の意思疎通がいかに乏しくなっているか、ということだ。
「今回のスパイ活動で、中国にどれだけの収穫があったのかはわからない」。ジョージタウン大学の教授で、国家安全保障会議(NSC)でかつてバラク・オバマ大統領に中国とアジアについて助言したエヴァン・メデイロス氏は、「それでも、主権に対する重大な侵害だったことは間違いない」と語る。