中国の「スパイ気球」に米国がここまで怒るワケ 過去の偵察問題とは根本的に異なる露骨さ

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中国が南シナ海の砂州に造った島の上をアメリカの航空機が飛行したり、その付近をアメリカの船舶が航行したりすれば、中国は主権侵害を持ち出して猛反発するのが普通だ。

「さらに、今回の件は(アメリカ人にとって)中国の挑戦を(理屈ではなく)本能的に理解させるものとなった」とメデイロス氏は指摘する。「犬の散歩をしていて空を見上げると、中国のスパイ気球が見えるのだから」。

後にわかったことだが、中国のスパイ気球が飛来したのはこれが初めてではない。今回、巨大な気球が撃墜される数時間前に、国防総省は南アメリカ上空を飛行中の気球がもう1つあると発表。中国の気球が以前からアメリカ上空を飛行していたことに言及した(これは今回の事件で迫られるまでは、何らかの理由があって国防総省が話したがらなかったことだ)。

国防総省の報道官は2日に発表した声明で、「この種の気球による活動は過去数年にわたって観測されてきた」と述べている。ある高官によると、その多くは太平洋上で、インド太平洋軍の司令部があるハワイ付近でも観測されている。

人工衛星にはできない情報収集活動

たとえそれが気球によるものであったとしても、超大国同士が互いを監視し合うのは何も目新しいことではない。ドワイト・アイゼンハワー大統領は1950年代半ばに、気球にカメラを搭載してソ連を監視することを許可し、「気象調査を装ってソ連圏の国々を飛行させた」と、2009年に国立公文書館が発表した論文に書かれている。

アイゼンハワー図書館の記録管理官である著者のデビッド・ハイト氏は、「これによって得られた有益な情報は少なく、むしろクレムリンから受けた抗議のほうが多かった」と報告している。

スパイ衛星の登場によって、気球による諜報活動は時代遅れになったかと思われた。

ところが、気球は戻ってきた。人工衛星を使えば大半のものは見られるとはいえ、ハイテクセンサーを搭載した気球は人工衛星よりもはるかに長時間にわたってターゲット上空にとどまることができ、宇宙からでは検知できない無線や携帯電話などの通信情報を拾うことができるからだ。

だからこそ、モンタナでスパイ気球が目撃されたことは重大事といえる(アメリカで核兵器を監督する国家安全保障局とアメリカ戦略軍は近年、核施設間の通信方法の刷新を進めている)。モンタナの核ミサイル格納庫は、国家安全保障関係のハッキングの多くを指揮している中国国家安全部にとって当然のターゲットのごく一部にすぎない。

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