津軽線、「鉄道存廃議論」の先にある地元の課題 蟹田―三厩間が存続しても住民連携は不可欠

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JR東日本が地元とつくり上げようとする「新たな交通体系」は、すでに半ば姿を現している可能性がある。候補となりうるのが2022年7月、運行が始まったデマンド型乗合タクシー「わんタク」だ。実証実験という位置づけで、蟹田駅などを起点に津軽半島北端の龍飛崎まで利用できる。料金は1回500円と格安に設定されている。

期間は7~9月を予定していたが、蟹田―三厩間の運休のため延長され、現在も運行している。当初は知名度不足から、地元の人々の利用が伸び悩んだ。しかし、豪雨被害後は代行バスとの組み合わせで鉄路の不在をカバーしてきた。

デマンド型乗合タクシー「わんタク」
蟹田駅を出発するデマンド型乗合タクシー「わんタク」=2023年1月(筆者撮影)

他方で、JR東日本は地域との関係づくりそのものを開拓する試みも進めてきた。その一例が、2020年に盛岡支社と地元2町、そして青森大学が連携して「JR津軽線プロジェクト」がスタートした。沿線のミニPR動画や「津軽線カード」の制作、奥津軽いまべつ駅での「津軽線トーク」などを実施し、今も継続中だ。

自動車利用が圧倒的だが…

外ヶ浜町は人口約5000人、今別町は約2100人と、ともに最盛期より7割以上減っている。2022年2月時点の高齢化率は今別町が県内最高の55.67%、外ヶ浜町がそれに次ぐ50.78%だ。地元の移動は自動車利用が圧倒的に多いとはいえ、鉄路を廃止すれば、さらに拍車がかかる可能性もある。

とはいえ、鉄路を残したとしても、その先には、真の課題である「人口減少と高齢化に適合した地域社会の再構築」が待ち構えている。一連の検討作業が、この「真の課題」にどう届くかが最も重要だろう。沿線の状況を見ると、地元の維持管理費負担もさることながら、存続した鉄道を「暮らし」に結びつけて最大限に活用する、いわば「改札口の内と外」をつなぐ営みは、ハードルが高いかもしれない。

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