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「ピカソ」没後50年の今、女性関係に批判高まる訳 芸術家の破天荒な行動は見逃されてきたが…

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  • 安部 雅延 国際ジャーナリスト(フランス在住)
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ミノタウロスは好色、暴力、罪悪感、絶望の禁欲的欲望を擬人化したものと考えられ、作品にミノタウロスが登場したのは最初の妻、オルガ・コクローヴァとの結婚生活が破綻したころだった。

破綻の理由となったのは、モデルのマリー・テレーズ・ワルテルという恋人ができたことだ。彼女は当時17歳でピカソは46歳だった。ピカソが心を整理できずにマリー・テレーズの美にのめり込んだことで、自分を性欲に狂うミノタウロスに例えたとも見られている。

【2023年6月8日18時40分追記】初出時、ピカソの年齢に関する表現に誤りがあり、上記の内容を修正しました。

その4番目の愛人、マリー・テレーズもピカソとの間に子どもを産んだ翌年にはピカソが新たな恋人ドラ・マールと付き合うようになり、2人はピカソの前で格闘して激しく争い、ピカソはその様子を楽しんでいたといわれている。時は1937年、56歳のピカソは、世紀の傑作といわれるスペイン内戦をテーマにした「ゲルニカ」を制作中だった。去ったマリーはその後自殺している。

作品が飛ぶように高額で売れていた早熟のピカソにとって、女たちはピカソのモデルになれることに驚喜したが、ピカソはミノタウロス同様、巨匠ではなく巨獣となり、女性を思うままにしていたと多くの研究者が指摘している。その行動は今の時代には通用しないものであり、彼の偉大性に影を落としている。

無論、男女の関係だけに女性の人権侵害で裁くには材料が不足していることや証拠に乏しいことも否定できない。作品で女性を侮辱しても芸術だ。それにピカソの巨額の資産もあって、女性側がピカソを訴え、裁判で争うこともなかった。

芸術家の破天荒な行動に厳しい目

興味深いのは、巨匠芸術家の性的、暴力的行動を含めた常軌を逸した行動は、過去においては見逃される例が大半だったが、今は厳しい目が向けられていることだ。

2017年にはアメリカのメトロポリタン美術館に対して、展示されているフランス人画家バルテュスの「夢見るテレーズ」が下半身下着姿の少女を描いた作品だったために不適切と批判された。ニューヨーク在住の起業家ミア・メリルが展示を差し止めるよう、1万1000人の署名とともに嘆願書を出した。

嘆願書に対して世論は「魔女狩り」など批判的反応が多く、最終的に美術館は要求を拒否した一方、有益な問題提起だったと付け加えた。

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【女性に注目するフランスの芸術界】

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