ベトナムを甘く見る人が知らない「驚くべき正体」 戦争のイメージが強いが、発展の萌芽があった

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池上:博物館の屋外には、当時使われていた戦車や戦闘機も展示されています。アメリカ軍が撤退するときに放置していった武器ですが、私のような軍事オタクにはたまりません。

ベトナム戦争が終わった後、1979年に起きた中越戦争で、ベトナムが中国に攻め込まれたときは、ベトナム軍はアメリカ軍が残していった兵器を使って、中国を撥(は)ねのけました。

ところでベトナム戦争では、クリスマスと旧正月に一旦戦争をストップするという、不思議なことをやっていました。

ベトナムは、旧正月を祝うため、その時期に戦争を一旦ストップすることをアメリカ軍に提案。旧正月はベトナム語でテトと言うので、テト休戦と呼ばれます。一方アメリカ軍は、クリスマス休戦を提案しました。

博物館で、過酷なベトナム戦争の歴史を目の当たりにしてから、ホーチミンの街のにぎわいのなかに身を置くと、よくぞここまで発展したなあと感慨深いです。

ベトナム戦争の従軍記者たちの活動を知ることができた

増田:池上さんのような軍事オタクとは程遠い私ですが、この博物館を訪ねて本当によかったと思いました。それは、ベトナム戦争の従軍記者たちの活動を知ることができたから。

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なかでも、ピューリッツァー賞を受賞した沢田教一氏の「安全への逃避」、AP通信の報道写真家ニック・ウット氏の「ナパーム弾の少女」。この2枚の写真は、誰もが教科書や資料集で一度は目にしたことがあるのではないかと思います。必死に逃げる母子や全裸で逃げまどう子どもの姿は、戦争の悲惨さを伝えるにはあまりあります。

アメリカ軍が散布した枯葉剤についても、目を覆いたくなるほどの被害の実態が展示されています。

いまから40年ほど前、結合双生児として生まれたベトちゃん・ドクちゃんのニュースは、当時高校生だった私にとって、あまりの衝撃で言葉を失いました。その後、日本赤十字社の医師も参加して、ふたりの分離手術は成功しますが、親子二代三代にわたって後遺症に苦しむ人々がいまなお存在するといいます。

展示を見るのはちょっとしんどいかもしれませんが、楽しい旅の合間に、少しだけ戦争と平和について考えるのも、素敵な時間の過ごし方ではないでしょうか。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶應義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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増田 ユリヤ ジャーナリスト

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ますだ ゆりや / Yuriya Masuda

1964年、神奈川県生まれ。27年にわたり、高校で世界史・日本史・現代社会を教えながら、NHKラジオ・テレビのリポーターを務めた。テレビ朝日系列「大下容子ワイド!スクランブル」でコメンテーターとして活躍。著書に『揺れる移民大国フランス』『世界を救うmRNAワクチンの開発者カタリン・カリコ』など多数ある。また池上彰氏との共著に『歴史と宗教がわかる!世界の歩き方』などがある。「池上彰と増田ユリヤのYouTube学園」でもニュースや歴史をわかりやすく解説している。

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