ホンダは「S660」で"らしさ"を取り戻せるか

異例の新車プロジェクトの舞台裏

今年2月に披露された発売前のS660。伊東社長は「とにかく乗って楽しい車に仕上がった」と満足げだった

椋本LPLをサポートし、若手スタッフの仕事を調整するLPL代行にはベテラン3人を据えたが、開発チームを公募で選ぶことは、ホンダの中でも珍しい。まさに異例尽くしの開発体制だった。

ところが、開発チームが結成され、これからという時に東日本大震災が発生し、栃木県の研究開発拠点も被災。一時的に開発は凍結を余儀なくされたが、この間に議論を深めて目指すべき方向性がはっきりした。「チームワークも高まり、家族のようになっていった」と椋本は振り返る。

研究所内でのコンセプト作りで煮詰まった際、メンバー全員で有休をとって栃木県内のカート場に行ったこともある。目線の低さから如実に感じられるスピード感や視界の広さなど、五感を揺さぶられる体験こそが運転する楽しさだと改めて実感した。

「ワイガヤ」で朝から晩まで議論

S660の開発には300人以上の開発スタッフが関わった。手前の中央が椋本LPL

設計全般の取りまとめ役だった安積悟LPL代行(48)は、「上から下に仕事を下ろすピラミッド型ではなくて、チームの全員が横並びで、それぞれに考えさせるやり方だった。皆が大きく成長した」と話す。開発過程では徹底的に議論するホンダ伝統の「ワイガヤ(ワイワイガヤガヤ)」が朝から晩まで続いたという。

ボディ設計を担当した糸川咲太郎PL(35)は、「効率重視でセクション分けをして、機能最適になりやすいところを、今回は商品最適で考えることができた。こうした環境を広げていくことがホンダの活性化に繋がっていくのではないか」と語るように、今後の新車の開発体制を考える上でも、得るものが多かったようだ。

もっとも、国内のスポーツカー市場は新車で約3万8000台で、市場全体の1%にも満たない。ただ、ダイハツが「コペン」を2014年6月に全面刷新して投入し、今年2月までに累計で8000台以上を販売。マツダは2015年6月に「ロードスター」を10年振りにフルモデルチェンジして発売するなど、市場活性化の材料はある。

ホンダのS660は2人乗りのオープンカーで、エンジンを車体の中央に置く「ミッドシップ」と呼ばれる構造を採用し、走りの安定性を高めた。軽快なハンドリングを実現するため、低重心にもこだわった。エンジンは、軽自動車の「Nシリーズ」をベースに改良し、新たに設計した過給器(ターボチャージャー)を組み込んで加速性能も引き上げている。

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