セコム創業・飯田亮が89年貫いた「艶っぽい」人生 生まれながらの事業家が究めたビジネスデザイン

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粋でスマートな資質は人柄に留まらず、経営にも反映された。男の色気を感じさせた飯田氏は「艶っぽい」、「色っぽい」という言葉を好んで使った。

飯田氏は社員を前にして、セコムの目指す形について常々こう話していた。

「下駄屋、味噌屋になっちゃだめだ。艶っぽい企業、色っぽい企業にならなくては」

決して、下駄屋、味噌屋を見下しているわけではない。飯田氏自身、江戸時代から続く老舗(酒問屋・岡永)に生まれ、「世襲経営をやっている会社にもいい所は多い」と老舗の存在に敬意を払っていた。そのうえでの発言だ。

その心は、男女を問わず、艶っぽい、色っぽいと言われる人は、必ずしも絶世の美男、美女であるとは限らない。時には、なぜ、あんなにもてるのだろうか、と不思議がられる人もいる。それは、藤本隆宏・東京大学名誉教授(現・早稲田大学大学院教授)の言葉を借りれば、「表層の競争力」と「深層の競争力」のうち、肝心要となる「深層の競争力」が見えていないだけなのだ。

セコムという社名にした理由

企業が勝ち残るためには、深層の競争力がカギとなる。競争の手の内が見えないようにするか、見えても一朝一夕にはまねられない複雑な事業が成り立つ仕組み(ビジネスモデル)を構築しなくてはならない。同時に、研究・開発など事業立ち上げから顧客に届くまで一連の事業プロセスを指す「ビジネスシステム」も深層の競争力を左右する。

「あの会社は何で儲かっているのだろうかと思われなくてはならない。何でもやるのではなく何でもできる。あまり有形のものには手を出さないが、何だって包含してしまう。だから『セコム』という訳の分からない社名にした」と言う。

ちなみに、「セコム」は、「セキュリティ・コミュニケーション(Security Communication)」を略した造語である。

飯田氏は42歳にして社長を退任している。「自ら申し出た」という。その理由は「ビジネスデザインに徹したいから」だった。

飯田氏が言うビジネスデザインとは、単なる事業構想ではなく、強い競争力を持つ事業の細部に至るまで設計したビジネスの仕組みを設計することである。値決めまで飯田氏が計算していた。今や、経営において「アート思考」が注目されているが、その先陣を切っていた飯田氏の発想力には驚かされる。

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