なぜ伊丹作品に限ってそれができたのでしょうか。その理由も池内社長は「映画会社がかりではなく、自分たちで製作資金を調達したからこそ、権利関係を明確にすることができた」と語っています。
つまり、作品をIPとして捉えていたのです。製作資金をリクープし、さらに次の作品を生み出すため資金源を確保するためです。今でこそ世界の映像コンテンツ市場で支持される考え方ですが、80年代から日本国内でその意識を持って実行していた伊丹作品のすごさを改めて思い知らされます。
社会の世相をエンタメにする視点
今後の展開は、日本映画専門チャンネルで「伊丹十三劇場4K」特集として1月21日からレギュラー放送が決定しているほか、日本国内での劇場公開も計画されています。過去の名作を楽しむ層は一般的に中年以上が想定されますが、先行して行われた海外映画祭の上映では若年層からも高い支持を得ている印象です。会場に多くの若者が詰めかけ、反響があった様子を筆者も台湾現地で確認しています。
若年層からも関心が集まった理由の1つが、伊丹作品の根底にある社会の世相を捉えた独自の視点です。伊丹プロダクションの会長で、1作目から支え続けてきた玉置泰氏が「伊丹さんはその時々の社会的な事象や興味を持ったものを作ってきた」と、台北金馬映画祭で話していた言葉からも裏付けることができます。
またすべての伊丹作品に出演し、伊丹監督の妻である女優の宮本信子氏は「伊丹さんがすごいと思うのはエンタメにしていることだと思います。社会問題を扱いながら、面白くて、誰にでもわかるようにして。実際、伊丹さんはいつも『田舎のおじいさんが見てもわかるものを作りたい』と言っていました」と言い表しています。
それを裏付けるように日本映画放送の宮川常務も「アカデミックかつエンターテインメントな作品を作れる監督は世界的にも少ない」と話し、この希少性がアメリカで実績を残した「タンポポ」(1985年)をはじめ伊丹作品が国境や世代を越えて再び注目を集めている理由にあるというのです。
これもまた作品の流通を限定し、価値を徹底追求することで見えてきたものなのかもしれません。だからこそ、若年層から支持されても流通手段をすぐさま配信にも広げないという選択が伊丹作品にとって今、有利に働くように思えてきます。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら