ライオン、高単価の「新感覚」柔軟剤で反撃なるか 日々の洗濯体験を「前向きな習慣に変える」

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今回の戦略を打ち出すにあたり、ライオンは過去の成功体験を参考にしている。それは歯磨き粉を中心としたオーラルケアでの成功だ。

ライオンはオーラルケア市場においてむし歯や歯周病の予防習慣などを提案、高単価な製品を浸透させることで、売り上げを拡大してきた。例えばハミガキ粉では、単価が470円を超える高価格帯の構成比が2018年から2022年までの4年間で10%程度拡大した一方、237円以下の低価格帯は10%程度縮小している。

2022年に約1390億円と予測されるハミガキ粉の市場は、人口減のマイナス影響のみを考慮すると2030年までに約60億円減少するという。だがライオンは、啓蒙活動などを通じて消費者が1日に行う歯磨きの回数が増え、商品の機能面などの向上で単価上昇に成功すれば、同期間で約710億円の市場拡大が期待できると見ている。

オーラルケア市場での成功体験を生かし、洗濯用洗剤市場でも付加価値化による市場拡大を実現させようと、「洗濯をポジティブな習慣にする」というコンセプトを提唱しているわけだ。

洗濯用洗剤や柔軟剤などのカテゴリーであるファブリック事業の部長の横手弘宣氏は、これまでオーラルケア事業部でこうした“習慣づくり”を推進してきた人物だ。横手氏は、主力ブランド「クリニカ」のブランドマネジャーとして、自身で歯磨きをするセルフケアに加えて歯医者での定期検査なども行う「予防歯科習慣」の提案などで、消費者の意識を高めてきた。

柔軟剤の新戦略について横手氏は、「今までは香り系か防臭系かどちらかを店頭で選んでください、というマーケティング手法だった。これでは市場は拡大しないと考え、洗濯全体の体験を変える商品を目指した」と語る。

ライオンの柔軟剤「エアリス」
一風変わったパッケージや透明な液剤で「新感覚」柔軟剤をうたう「エアリス」。消費者の認知は進むか(提供:ライオン)

エアリスのデザインは、容器や成分を透明にしたり、香りの表現に3桁の番号を紐づけたりと「既存製品とは違う」ことを前面にアピールしている。ただ、消費者に馴染みのないパッケージは、日用品に安心感を求める層を退けてしまうリスクもある。価格も引き上げる中、新しいコンセプトの価値を消費者に認めてもらえるかが焦点だ。

競合から大きく引き離された現状

現在、洗濯用洗剤市場でのライオンの立ち位置は非常に厳しい。洗濯用洗剤市場は、花王、P&G、ライオンの3社のほぼ寡占状態だが、ここ数年はライオンが競合2社に後れを取っている。

イギリスの調査会社ユーロモニターの調査によると、柔軟剤などを含めた洗濯用洗剤市場で2016年に19.3%だったライオンのシェアは、2021年には14.7%に減少している。

一方、トップを走り続ける花王は同期間に39.8%へ3.7%増、次いでP&Gが36.6%へ1.4%増と、いずれもシェアを伸ばした。背景には、競合2社が新たな価値を持った大型新製品を投入した一方で、ライオンは新製品を打ち出せずにいたためだ。

例えば花王は、2019年に洗濯用洗剤「アタックゼロ」を発売し、新たな界面活性剤「バイオIOS」を導入して洗浄力を高め、片手でも計量が容易な「ワンハンドプッシュ」で利便性も高めて人気を博した。2021年にはP&Gが洗濯機に1粒入れるだけで簡単に使用できる「ジェルボール」シリーズから、洗浄力を一段高めた「アリエール ジェルボール4D」を発売している。

ライオンはこうした動きを横目で見ながらコツコツと製品開発を進め、二強体制に食い込むべく、今回、満を持して新商品を発表したわけだ。洗濯用洗剤市場でライオンはかつての存在感を取り戻すことができるのか。2023年は勝負の1年となりそうだ。

伊藤 退助 東洋経済 記者

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いとう たいすけ / Taisuke Ito

日用品業界を担当し、ドラッグストアを真剣な面持ちで歩き回っている。大学時代にはドイツのケルン大学に留学、ドイツ関係のアルバイトも。趣味は水泳と音楽鑑賞。

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