今年をいい年にしたい人に伝えたい「3つの心得」 3800人看取った医師が考える自分らしい生き方

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ある日、私はこの患者さんに問いかけました。

「これからどんなことがあれば、お母さんは、穏やかな気持ちで日々を過ごすことができると思いますか?」

この問いに対し、彼女は何日も考え、「お母さんの介護をプロの手に任せること」という答えにたどりつきました。長年抱えていた、「お母さんの介護を、自分がしなければならない」という思いを手放したのです。

「やりたいことがなくても焦らない」

一方で、この患者さんが最後まで手放さなかった「しなければならないこと」もありました。それは、お母さんと一緒の写真を撮ることです。

「お母さんとの写真をどうしても撮りたい」と相談されたのは、症状がかなり進んで、あと何日生きられるかわからないというときでしたが、撮影は無事終了し、その5日後に患者さんは亡くなりました。

とても大切な「しなければならないこと」を実現させられた喜びからでしょうか。写真の中の彼女は、とても穏やかで美しい笑顔を浮かべています。

もしあと1年で人生が終わるとしたら?
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「しなければならないこと」に追われすぎて、自分の人生を楽しめていない人や、「~をしなければ」という気持ちが、自分でも辛いと感じている人は、1つひとつの「しなければならないこと」について、「あと1年で人生が終わるとしたら、自分のために、これをやる必要はあるだろうか?」と考えてみるのも、いいかもしれません。

「人生があと1年で終わる」と考えると、よけいなものがそぎ落とされ、今の自分にとって本当に大事なことだけが見えてきます。

ただ、元気に生きているとき、私たちはなかなか、その大切なものに気づくことができません。人生の終わりが近づいてきたとき、初めて、それが何であるかを知ることも多いのです。

ですから、これからの1年を、少しでも悔いなく生きるために、自分らしく生きるために、「人生に『締め切り』を設けてみる」、「やりたいことがなくても焦らない」「自分のための1年を過ごす」ことをお勧めします。そうすればきっと、これからの1年がすばらしいものになり、自分らしく生きられるはずです。

小澤 竹俊 医師

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おざわ たけとし / Taketoshi Ozawa

1963年東京生まれ。1987年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。1991年山形大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了。救命救急センター、農村医療に従事した後、1994年より横浜甦生病院ホスピス病棟に務め、病棟長となる。2006年めぐみ在宅クリニックを開院。これまでに3800人以上の患者さんを看取ってきた。医療者や介護士の人材育成のために、2015年に一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会を設立。著書に『あなたの強さは、あなたの弱さから生まれる』(アスコム)がある。

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