国鉄形が復活、「455系観光急行」はなぜ人気か? わかる人しかわからないが、わかる人は案外多い

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そして15分停車の糸魚川を発車して20分後、終着の市振に着いた。本当に何もない駅で、あるのは小さな駅舎と島式ホームと、大荒れとなれば小石が吹き飛ばされてくるという強烈な波浪から駅と列車を守る防風壁だけである。

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日によって、地元の人が来訪に感謝する文字を書いた海岸の小石を手渡してくれるもてなしもある。ホームに降り立った乗客は、なんとはなしの時間をのんびり過ごし、折り返し「急行2号」の乗客になる。また、滞在を慌ただしく5分で切り上げ一般の普通列車で折り返すと、糸魚川で大糸線南小谷行き列車に乗り継ぐコースを描くこともできる。

こうして乗客の多くは455系電車の運用と行動をともにするが、さらなる強者がいる。455系は元来、大都市から地方へ向かう長距離列車のために誕生した。その追体験をするためにトキ鉄では、朝の快速から乗りっ放しで過ごせる「朝から夕まで455」とか、夜の臨時便を加えた「朝から夜まで455」といった企画商品を設けている。さらには連続20時間乗車、翌朝の普通列車運用を加えると22時間の挑戦となる「朝から朝まで455」までもがクリスマスや越年に際して、車内で提供されるメニューも特別バージョンとして運転される。

わかる人しかわからないが…

同じ区間を同じ電車で何度も往復してどこにも行けない商品がなぜ売れるのかは、わかる人にしかわからないが、それでも“わかる人”の数は案外多くて、当時にタイムトラベルできる企画として人気があるようだ。

夕方、糸魚川16時40分発の「急行4号」は、景勝で徐行したり途中駅でのんびり停車したりの「急がないで行く急行列車」の中で異色の設定である。38.8kmをノンストップ28分、平均速度時速83km。往年の特急列車に迫る。糸魚川駅を流しノッチで起動して機器の状態を確認すると、即座にフルノッチ。構内最外方の分岐器はすでに勢いよく、あとはひたすらモーターが唸り続ける。闇に景色は見えなくとも瞼を閉じれば昔の車窓風景が蘇ってくるようだ。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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